内容説明
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設へールシャムの親友トミーやルースも「提供者」だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度……。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく。解説:柴田元幸
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
1669
小説を読むよりも前に映画を見てしまったのだけど、映画は原作にかなり忠実で、しかも原作の持つ趣もよく伝えていたと思う。ただし、語り手であり、主人公でもあるキャスをはじめとした登場人物たちの心の表現の微細さは小説ならではである。生きることの意味を問いかける本書のテーマは、この特異な構想の中でみごとに描き出されているといえるだろう。ヘールシャムからノーフォークにいたるまで、その情景は常に冬枯れたかのような光景であり、一人称体で淡々とした語りの手法も成功しているだろう。2012/02/18
starbro
1431
読友さんのオススメで読みました。忘れられた巨人に次いでカズオ・イシグロ二冊目です。今回はミステリ調でしっくり来ました。読み進める上で内容が明らかになりますが、良質なホラーのように正体を中々現しません。臓器移植、選民思想等、色々考えさせられました。代表作だけあり骨太の素晴らしい作品だと思います。2015/08/08
抹茶モナカ
1240
物凄く抑制の効いた文章で、奇妙な物語を描きつくしていて、見事。文体が印象に残ったのは、翻訳者の努力もあるだろうか。奇妙な物語で、三角関係の恋愛小説という側面もある。ミステリー小説の要素もあるけど、それはそんなに重要ではない。2014/05/11
パトラッシュ
1089
キャシーたちの生きざまについて、多くの読者が疑問に思っているだろう。なぜ自分たちが生体臓器工場であり、早死にする運命を甘受しているのか。なぜアメリカの黒人奴隷や、ナチスの強制収容所に閉じ込められたユダヤ人のように自由を求めて立ち上がらないのかと。『猿の惑星』など似たテーマのハリウッド映画は何本もあるが、すべて支配する者とされる者の対立と抗争を描いてきたのに。もしイシグロが、実はオリジナルの人間に忠実になるよう睡眠教育でも施されているとの裏設定をしているのなら、一瞬で悪夢の如きホラー小説に変貌してしまうが。
ehirano1
872
「信頼できない語り手」が次のステージへ進む前に前ステージについての回想が語られます。「(大切な)記憶」は精神であり、つまりは魂でもある。すなわち、「魂」のメタを「記憶」として静かで抑制された文体が強烈な悲哀を生み出していたのではないかと思いました。2025/07/07
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