内容説明
時は戦国、天下一の連歌師・宗牧と、その息子・無為と共に、弟子の友軌は東国を歴訪する旅に出ることになった。そこへ朝廷から、尾張の織田、三河の松平、相模の北条に宛てた書簡を託されてしまう。数人が集まって百韻の句を詠む連歌の興行を催しながら、数多の困難をかきわけ進む一行を描いた異色ロードノベル。※本書は2002年11月、小社より刊行された『連歌師幽艶行』を改題し、一部改訂したものです。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤枝梅安
22
03年に松本清張賞を受賞した「月ノ浦惣庄公事置書」の前年に発表された「連歌師幽艶行」を改題・一部改訂したもの。戦国時代の連歌師・宗牧の「東国紀行」がベース。宗牧の弟子・友軌が宗牧とその息子・無為との3人の旅を描く。京を発つにあたり、調停から、尾張の織田、三河の松平、さらには相州の北条に宛てた書状を託され、各地で展開される領地をめぐる小競り合いを潜り抜けつつ、東に向かう。弟子であるが故に師匠から無理難題を押し付けられ、それを何とか解決して行く友軌の姿は、滑稽でありながら共感を覚えずにはいられない。2010/10/10
onasu
12
信長の父親、信秀が尾張で勢力を延ばしていた頃。連歌師の宗匠とその息子、弟子の友軌(ユウキ)が京から、尾張、三河、駿府、相州へと連歌興行の旅に。 連歌師は旅が生業の公界(クガイ 俗を離れた)者とは言え、きな臭い方面へ向かわざるをえなくなったのは浮世の定め。それでも、行った先々では興行に招かれ、情報収集としても歓迎されるが、弟子の友軌は小間使いに倦み、一人悶々として歌の向上も滞りがちだったが…。 期待したほど武将の話しがなかったのが残念だったが、旅の話しとしては、当時の雰囲気も感じられておもしろかった。2021/04/11
ペロ
8
主人公は連歌師見習いの少年。彼が師匠と共に京から東国へ旅した時に経験した悲喜こもごもをユーモラスなタッチで描いた作品。二つの点でとても為になりました。一つは今までよく分からなかった連歌の会の雰囲気が味わえたこと。ハマってしまう人の気持ちが理解できました。二つ目は信長以前の尾張から伊豆にかけての各国の様子を明確に捉えられたことです。例えば駿府が経済的にも文化的にも突出していた事を改めて思い知らされました。既に絶版になっているようですがもっと読まれてもいい作品だと思います。2017/06/08
うたまる
2
「歌は人の心に入り込んでその芯を揺り動かすのやさかい、力になるのや」……戦国中期、東海道を下る連歌の宗匠、宗牧一行のロードノベル。芸事を主題にすると往々にして堅苦しくなるものだけど、本作はそうではない。主役の友軌はヘタレのダメ人間だし脇役の師匠は剽げてるしで、いい意味で軽いのだ。そしてその軽さの中に、連歌の魔力と友軌の迷いが描かれ、軽いのに濃ゆい作品となっている。色合いの異なる8編を愉しめるのも良い。折々に挿し込まれる歌も良い。何より文章のリズムが良い。続編があれば是非読みたいところ。2017/01/04