内容説明
高校生の僕は、ディケンズの『骨董屋』を読み、作中のキルプにひかれる。そして、刑事の忠叔父さんと一緒に原文で読み進めるうちに、事件に巻き込まれてしまう。「罪のゆるし」「苦しい患いからの恢復(かいふく)」「癒し」を、書くことと読むことが結び合う新たな語り口で示した大江文学の結晶。
目次
キルプの軍団
新しい文庫版のために
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
142
今回の物語の語り手は大江家の次男、高校2年生のオーちゃん。もちろん、フィクションである。ディケンズの『骨董屋』を「語り」の軸として物語りは展開してゆく。ディケンズのネルにあたる元サーカスの一輪車乗りの百恵さん、その彼女とは対極の世界にいるかのような革命党派「キルプの軍団」、そして図らずもその両者に関わることになったオーちゃん。これはオーちゃんのイニシエーションの物語だ。それは大いなる悲しみ(状況に対するものと、自身の少年への訣別)と慙愧の念とを伴っていた。しかも、それは燔祭までをも必要としたのだから。2014/08/16
金吾
22
読みやすいですが、入り込めませんでした。あとがきを読んで納得できました。2025/10/28
モリータ
8
◆'87-'88年『へるめす』連載、追加・完結の上改題して'88年刊。『懐かしい年への手紙』の直後。◆作家の次男「オーちゃん」の視点の物語。主人公は作家の弟で暴力犯刑事の「忠叔父さん」とディケンズの『骨董屋』を読み解き交流する中で、『骨董屋』を軸に『虐げられた人びと』やイブラヒムとイサクの話も引きながら映画を作ろうとする無垢な「百恵さん」と「原さん」一家に関わっていく。◆大江は新左翼の動きを横目で見、『河馬に噛まれる』連作のテーマともしている。その愚かさ・酷さを前提として、どう表現するか?次の端的な一文。2021/08/01
seer78
7
ディケンズ『骨董屋』を原書で講読することから始まる物語はやがて主人公の高校生を奇妙な事件に巻き込む。四国から上京してきた叔父と、作家である父親。元サーカスの一輪車乗りの女性と、かつて学生運動で過激派イデオローグだったその夫。主人公は叔父の依頼により女性との連絡係を引き受けた結果、森の小屋での映画作りを手伝うことになる。そこに若い活動家たちのある企みがあるとも知らず…。小説を厳密に読むことがそのまま現実を作り出し、暴力的な世界に対峙することへと読者を誘う。くどい文体が特徴のこの作家にしては読みやすい作品。2012/11/30
mstr_kk
4
面白い小説でしたが、原さんと百恵さんがかわいそうすぎてつらいです。特に原さんは、非常にシリアスな人間像だと思います。映画作りや革命党派の抗争といった、大江のオブセッションのようなモチーフが出てきて、大江健三郎がどんな作家だったのかが、よりクリアになりました。2025/03/11




