内容説明
男は書き、女は演じる。舞台をめぐる愛の行方。かつて有望なプロデューサーを葬り去った「森下家の沈黙」の再演にあたって、家出娘のマナコ役に抜擢された赤坂絢子。最後の第3場にしか登場しない難しい役に、気持ちは作者の寺脇滋有へと向かう。舞台初日は好意的に迎えられたものの演技に悩む絢子は、深夜、滋有の家に電話をかけて……。読売文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
takao
2
ふむ2024/04/26
魚53
2
赤坂絢子と劇中人物であるマナコが一体化したり、離れたりしながら、結局物語は劇の中に吸収される形で終わってしまう。全ては寺脇滋有という劇作家の頭の中の出来事であったのだろうか?物語を読む前と読んだあとでは何かが違ってしまうように、小説中の劇「森下家の沈黙」の始まりとともに、それまで固まっていた物事はゼリーのように揺れだし、いつの間にか壊れて、今までとは少し違った形の現実が残されていた。2013/11/04
遥かなる想い
1
読売文学賞受賞。 黒井千次は 『春の道標』以来、2作目だが、 「父たちの青春」だったものと 違い、 ひどく濃厚な作品だった。 かつて有望なプロデューサーを葬り去った 「森下家の沈黙」の再演にあたって、家出娘のマナコ役に 抜擢された赤坂絢子。 この絢子の人物造形がよい。 最後の第三場にしか登場しない難しい役に、気持ちは 作者の寺脇滋有へと向かうという・・ 滋有のためらいと、絢子の まっすぐな想いが、 劇団という 閉じた世界の中で、ひどく 艶めかしく 描かれる。 昔の小説は この手の本が 2011/02/12
MAYUismx
0
"み渡せば 花ももみぢもなかりけり 浦の苫屋の 秋の夕ぐれ"と和歌で詠まれたように 一瞬思い浮かべたものを"ない"ということでその空間の何もなさを感じれる日本人らしい感覚を最後の滋有を読んで感じれる。それに加えて人間の卑しさ、艶めかしさが上手く描かれている。物寂しくも自分へ何か問われているような感覚に陥った。2018/09/27