内容説明
祖母から聞いた、四国の森の奥深くに伝わる「壊す人」と「オシコメ」の創造の物語を、MとTという記号を用いて書き記す。時の権力から独立した、1つのユートピアがつくり出される奇想天外の物語は、いつしか20世紀末の作家が生きる世界、われわれの時代に照応していく。海外で最も読まれている大江作品。
目次
序章 M/T・生涯の地図の記号
第一章 「壊す人」
第二章 オシコメ、「復古運動」
第三章 「自由時代」の終り
第四章 五十日戦争
第五章 「森のフシギ」の音楽
語り方の問題(あとがきにかえて)
新しい文庫版のために
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
279
これまでにもいくつかの小説で微妙に変奏されながら語られてきた大江の故郷の村の物語の、いわば集大成である。四国の谷間を遡ったところにあり、周りからは隔絶した村の創世神話と、それに続く歴史が語られる。ひじょうに特異なのは、国家の神話とは別の体系を持って「壊す人」と「オーバー」に始まる村の神話が語られることである。すなわち、そこでは国家全体のナショナルと極微のリージョナルとが拮抗する。そして、歴史時代に入っても、この村は大日本帝国に対して「五十日戦争」を闘うのだ。大江のリージョナルにして壮大なマルケス風の物語。2013/08/31
メタボン
35
☆☆☆☆☆ グロテスクリアリズムの真骨頂とも言える豊饒な物語を堪能した。同時代ゲームも読んでたので、既視感に満ちた読書だったが、本人も書いていたように、ナラティブ(語り方)にこだわった故に、一層物語が心に響いてくる形となった。やはり主人公の母の愛媛弁の語りが良い。オーバー、オシコメと壊す人、銘助さんと銘助母、祖母と天狗のカゲマたるKちゃんと光といった、メイトリアークとトリックスターの関係性が奥深い。ある意味大江の集大成と言える傑作。単行本は綺麗な装丁で、子供向けとも思える感じだが内容は深かった。2022/11/03
梟をめぐる読書
15
大江文学のなかでも非常なまでの難解さによって知られる『同時代ゲーム』(=谷間の森の神話と歴史)を文体を変えて、わかりやすく再話したもの。壊す人、アポ爺・ペリ爺、メイスケサン、自由時代、五十日戦争といった固有名詞はそのままに、村の歴史を伝える語り手をより現実の作者に近い位置に再設定し、神話の細部もところどころ弄っている。M/Tとは〝Matriarch(女族長)〟と〝Trickstar(トリックスター)〟の謂いだが、『万延元年~』の〝蜜三郎〟と〝鷹四〟もこのイニシャルに対応していたことに後で気付いた。偶然?2013/04/14
マウリツィウス
14
大江健三郎の形成する記号表象界はボルヘス経由、マルケスやカフカを連想するかもしれないが、バベルの構築論と著しく一致する箇所も何点か見られるようだ。例えば作中にM/Tの農村には架空の建造物の陳列が語られるが、ボルヘス思想を簡潔にキューブ配列の世界に解釈、記号性のある名前を同志安部公房への敬愛に捧ぐ。本質的にはジョイスの生成界を日本レヴェルにブレイクアウトし結界に近い領域を完成、安部の悲願である不条理劇の大衆化を果たしていく。大江が見据えたのは恐らくモアの説くユートピア、反キリスト教主義を因縁に含めている。2013/04/16
記憶喪失した男
9
欧米ではいちばん売れている大江健三郎の本だということで、ひょっとして隠れた傑作なんじゃないかと読んでみたが、それほどたいしたことはなかった。大江健三郎の代表作は普通に「万延元年のフットボール」でよいと思うし、大江健三郎はそういう作家だったと思う。2019/12/29
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