内容説明
生きることに無器用なひとなのね、それが私にはいとしかった――葉月さんは亡くなる前、娘の弥生と幼なじみの僕に話してくれた。かつて別れた恋人のことを。弥生はその男の向かいの部屋に住み、彼の講義を聴きに短大に通った。「お父さん」と、一度も告げられずに。卒業式の日、僕は弥生の帰りを待つ――。(講談社文庫)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
146
稀な企画の映画「卒業」との連動コラボレート小説。あとがきで語られた誠にお気の毒で不運な実体験のお話を読んで著者の飾らない性格がうかがい知れて良かったです。それから懇切丁寧な素晴らしい池上冬樹氏の巻末解説でほぼ全てが言い尽くされていますが、私見として葉月が真山とよりを戻さなかった理由は勿論彼の母親のせいで彼女(母)の死後も遺志を尊重した事と自らの意地の為でしょうし、娘の弥生も母の思いを引き継ぎ(預金の受取を拒否して)自分だけが幸せになる事を遠慮したのでしょうね。徹也には弥生とどうか幸せな人生を歩んで欲しい。2018/09/23
あつひめ
76
映画とのコラボ作品だそうだ。究極の愛ってこういうのかなぁ…と胸がキュンとなってしまった。人を恨みながら生きても、誰かと笑いあっても同じように人生は過ぎ去る。誰にも本心を悟られないように生きた葉月さんの覚悟はものすごいものだと思う。もっと素直になってしまえばいいのになぁ…と思うところがいくつもある。それは登場人物皆がそう。その空白の行間にいろんな思いがこもっているのかも。人を愛することの切なさや幸福感が感じられる…自分の汚れた部分が浄化されるような物語だった。私も…相手の全てを愛しく思える恋がしたい。2014/08/30
はつばあば
61
薄っぺらい本に、なんでこれだけ優しさに包まれた、死と向き合い、親子である血の絆と向き合う本ができたのだと、ベッドの上で ピュアな気持ちを取り戻せた自分の幸せに感謝しました2017/10/26
りゅう☆
57
「卒業」という映画のサイドストーリーということに驚き。未婚の母葉月さんの娘弥生。その幼馴染の徹也視点で語られる。弥生の父親への亡くなった葉月さんの思い。なぜあんなに愛し合っていたのに別れてしまったのか。そして娘ということを隠して教師と教え子という普通の関係から卒業と同時に別れを選んだ弥生。それをそばで支える友達以上恋人未満の徹也。それぞれの思いがぶつかることなく切なくて、でも愛に溢れていて、100P程の物語だけど心が満たされた気がする。弥生と父親、その恋人で繰り広げられる映画も観てみたい。2015/04/30
マコポン
57
短い作品だったけれど、とても心温まるいい話だった。2014/05/29