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内容説明
19世紀ロシアの一裁判官が、「死」と向かい合う過程で味わう心理的葛藤を鋭く描いた「イワン・イリイチの死」。社会的地位のある地主貴族の主人公が、嫉妬がもとで妻を刺し殺す――作者の性と愛をめぐる長い葛藤が反映された「クロイツェル・ソナタ」。トルストイの文体が持っている「音とリズム」を日本語に移しかえ、近代小説への懐疑をくぐり抜けた後の新しい作風を端正な文体で再現したトルストイ後期中編2作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
125
『イワン・イリイチの死』では平凡な判事が死に向かう過程における心理的葛藤が鋭い洞察の元に描かれている。彼のように人はいつか死ぬことを知りつつも、それを自分自身のこととしては意識していない人間は少なくないだろう。作中で彼が得た数々の驚きや発見は真実味と説得力のあるものだ。『クロイツェル・ソナタ』は嫉妬から妻を殺害した男による独白。演奏シーンはもちろんのこと、終盤で怒涛の勢いで膨張する嫉妬の克明かつ精緻な描写は圧倒的な迫力がある。どちらも力強い筆致だが、人間・夫婦関係に対する著者の疲弊が随所に反映されている。2017/11/18
kazi
81
「イワン・イリイチの死」は初読でした。トルストイが扱うテーマは過激ですね。『彼の仕事も、生活設計も、家族も、社会の利益や職務上の利益も─ ─すべて偽物かもしれない。』死が迫った時に、こんな思いに襲われたくは無いですよね。自身の人生に照らし合わせて、生き方というものについて考えさせられます。「気楽、快適、上品」をモットーにしていたイリチイ氏は、家族や社会と真剣に向き合うことを避けてきたツケを払わされたのでしょうか?私が死ぬときに、側で悼んでくれる人はいるのだろうか?なんだか自信が無くなってきましたよ・・。2020/08/02
キムチ27@シンプル
81
生きているからこその苦悩を見事に掘り下げている。個人的な想いだがスラブ民族独特の香りがした。どうしても視覚から入ってしまうのでトルストイの・・あの写真を思い出しつつ読み終えた。どちらも重い・・だが思ってどうなるの❓‼と考えているのは未だに死への恐怖が迫ってこないからだろうか(という傲慢さ)クロイツェル・・、ベートーベンのその曲を思い出せないけれど、人それぞれにある「静謐であるが故の」という素晴らしい曲かな。この本の前に読んだ作品とオーバーラップして私なりに複層的な感慨にふけった。男と女・・それしかいない。2016/06/02
星落秋風五丈原
80
「イワン・イリイチの死」次男として生まれたイワン・イリイチはごく普通に育ちごく普通の結婚をするが途中から夫婦生活が悪くなっていく。それでも見ないふりして普通を生きようとする。倒叙法で冒頭がイワン・イリイチの死。「クロイツェル・ソナタ」ひとしきり列車の中で結婚・恋愛について人々が話したあと、一人残った私に青年が打ち明けた事とは。映画でも延々青年が話していた小説を踏襲した構成だった。妻明らかにとばっちりだと思うのだが。2023/08/12
催涙雨
66
トルストイの作品は「光ある〜」しか読んでいないのだが、理想主義的な作風から受ける印象は本作もそれほど変わらない。「光ある」のイメージに引っ張られているせいもあるとは思うが、どちらの作品も最終的には善きサマリア人的な生き方を説くための寓話みたいなイメージがかなり強く残った。とにかく利他的であることを心の底から望んでいる様子が伝わってくる。どちらもとても良い作品だがイワン・イリイチの死のほうが好みではある。死に限りなく近付く過程で利己的な人生(それは一般的な人生でもある)を振り返り、病床に伏した自分を顧みる「2019/05/26