内容説明
聚楽第の庭にふさわしい、紫の椿を探すように命じられた又左。又左がただ一度見た紫の椿は、忘れることのない女人との苦い記憶とともにあった――。表題作のほか、連歌師の里村紹巴を描いた「天下百韻」、醍醐の花見での料理勝負「包丁奥義」、落語の祖といわれた安楽庵策伝がただひとり敵わないと思った男を描いた「笑うて候」など、全七編。秀吉の世に生きた美の変革者達にまつわる珠玉の作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
レアル
63
桃山時代の文化人を描いた短編集。不必要な描写は一切なく、熟考された文章のみ描かれ、どれもが重厚感ある作品となっている。無名の頃から名が知れるほどになるまでの世界が描かれた作品。一つの事に精進し研鑽される姿は読んでて心地よい。短編はあまり好きではないけれど、この作品は読み応えがあったし、良い作品だった。2015/09/30
藤枝梅安
41
桃山時代の文化人を描く7編の短編集。舞踊の山三、能の七太夫、染色の義一、連歌の紹巴、料理の三十郎、噺の新左衛門、花つくりの又左。当時の権力の頂点にあった秀吉と、その周辺の抗争に巻き込まれ、ある時は権力を利用し、ある時は翻弄されながら自己の「美」を追求した7人の努力と苦悩の物語。それぞれ独立しているが、通して読むとさらに興味深い。のちにこの作家が長編として発表し話題となった作品の萌芽がみられる。この作家の優れた力量に触れるならまずはこの1冊か「壮心の夢」をお薦めしたい。2014/01/09
シュラフ
24
司馬遼太郎がいたことは日本人にとって最大の幸福であるが、歴史小説家にとっては不幸であろう。後の歴史小説家がいくら頑張ろうとも司馬遼太郎を超えることは難しい。火坂雅志も戦国時代もの中心の作家。この本は戦国時代の裏舞台ものを描いた短編集。表題の「利休椿」は利休により紫の椿を探すように命じられた男の物語。他は能楽師、染め師、連歌師、料理人、噺家、などの物語である。戦国時代というと殺伐な雰囲気のみに感じられるが、裏舞台においては桃山文化と言われるように絢爛豪華な桃山文化が花ひらいた時代ということをあらためて認識。2015/01/01
Yukihiro Nishino
11
桃山時代を扱った短編集。淀殿や利休に関わる話などバラエティー豊かで楽しく読めた。2018/03/05
Ryuji
6
★★★★★これは文句なく星五つ。戦国末期の文化人を題材に描いた短編集。以前から火坂雅志さんは、歴史の主役では無い人を描くととてもうまいなぁーと思っていたが(『黄金の華』『覇商の門』『沢彦』『黒衣の宰相』『全宗』等々)、まさにこの本がその原点のような本。血生臭さが嫌いで戦国期の歴史小説を読まない人にもお薦め出来る。短編7編、どれも甲乙つけがたい。2014/01/23