内容説明
モーツァルトはあらゆるジャンルで名曲を残していますが、彼自身は音楽形式の中で総合芸術たるオペラを最高峰に位置づけていました。本書ではモーツァルトの名作オペラ7作品を、「愛」をテーマに読みといていきます。18世紀の優雅、華麗なロココ社会では、表面は徹底的に上品にとりつくろわれ、人間が本来持っている感情や欲望を表すことはタブーとされていました。オペラもまた、ひたすら美しく心地よいものであることを求められていた中で、モーツァルトはあえてタブーを破り、決してきれいごとだけではないありのままの人間の姿を、オペラの中で描きだしてみせたのです。最も具象的な表現形態であるオペラでは、モーツァルト自身の愛の苦しみや喜びが、一音一音にのせられて、または歌詞の中で如実に吐露されています。時代によりモーツァルト像はさまざまに変貌していますが、人間としてのモーツァルトの真情を聴きとり、その真実の姿に近づくために、多くの方にぜひ読んでいただきたい一冊です。
目次
序章 モーツァルトのオペラが描いたもの
若き日の透明なまなざし―『イドメネオ』
おとぎ話のピュアな初恋―『後宮よりの誘拐』
おとなのための浮気の哲学―『フィガロの結婚』
快楽の化身の悲劇―『ドン・ジョヴァンニ』
裏切りを知るとき―『コジ・ファン・トゥッテ』
孤独な天才の理想郷―『魔笛』
最後の透明な輝き―『皇帝ティートの慈悲』
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
NyanNyanShinji
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オペラ評論家の永竹由幸氏によるモーツァルトオペラ論。『イドメネオ』に始まり『皇帝ティートの慈悲』に終わる。本書でも氏の文化人類学的かつ西洋文化史の視点から腑分けされたモーツァルトの歌劇作品論は、ダイナミックかつ刺激的だ。取り分け『魔笛』とフリーメーソン論は『ダ・ヴィンチ・コード』やヴァーグナーの『パルジファル』と絡めつつモーツァルトの死因に繋げるなどショッキングな内容で圧倒された。ただ少しばかり牽強付会な気もしたけども…氏の著作について今しばらく読み進めてゆきたい。2023/04/27