内容説明
奉公先から実家へ戻るため関所破りをした娘・お八重に大津代官所の沖宗弥兵衛は処刑の命を下す。だが彼女は弥兵衛の嫡男の命を救っていたことがわかり、深く罪を悔いた彼は僧侶となる。お八重を軸に、人間の宿業と絆の深さを描いた連作集。
感想・レビュー
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山内正
4
儂が頼んだ蕎麦まだかいな 行儀悪い事言わんときやす 左足で貧乏揺りも見苦しいおす 蕎麦好きの夫婦はこの店に来る 今日も金蒔絵の象牙櫛を深くさし お伊奈に気が付く お前様おのお伊奈はんの櫛気付いてはりますか この前捕まった鳴神の庄九郎は 女形そこのけのええ男やと言います 逃げた下っ端二三人いて捕まってないと お伊奈を見ながら話を うちはあんな気の据わった娘が 嫁にええと思います 父親は陶器作りの職人やと 弟の藤吉が夜に黒尽くめの格好で 家に飛び込んできて匿って欲しいと焦げ臭い匂いをして 2022/06/29
きくちゃん
0
七編の短編集で、各々が独立した物語として読めるのだがそれぞれが微妙な因果と宿業で繋がっており、非常に読み応えがあった。特に一話で非業の死を遂げる八重が哀れであるが、物語はその死を象徴として最後まで繋がっており影の主人公とも言える。そうした作者の構成の上手さに快哉。一方表題となった花籠の櫛を身につけたお伊奈は表の主人公とも言え、その凛とした気品と最後の始末には小説でありながら感服。世間にはこうした類いの話が良くあり、作者はそうした世間を小説に投影したかったのではなかろうか。私としては今年一番の傑作。2021/05/31