内容説明
『夜のある町で』『忘れられる過去』につづくエッセイ集である本書『世に出ないことば』について、あとがきで著者は、こう書いている。「読書が、この本の中心になった。いろんな作品を読み、以下のことを感じた。文章は、どの人のものも、ことばという木の葉をいくつか、ときには、いっぱいつけて出てくる。身がかくれるようないでたちで、登場する。書きたくはなかったこと、そうは思えなかったこと、急だったこと、いまは埋めておきたいこと、このあとで気づくことになることなどが、あるためだろう。そのあたりは光が足りず、なかなか決められないものだ。文章にも、ことばひとつにも、世に出ない世界があるのだ。そのまわりを歩いた。木の葉をつけて、歩いてみた。」「水曜日の戦い」「ぼくのせっけん」「悲しくはない絵」「封筒の世界」「東京にはいない人」など66編。いちばん気になる作家の、いまとこれからが、つまっている。
目次
秋
ぼくのめがね
土台
軽井沢
郵便番号簿と文学
青年の眠り
「才丸」へ行く
静かな人の夜
いま動いた
風景の時間〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
踊る猫
25
荒川洋治が読書家であることは言を俟たないが、同時にこの書き手はそうした安直な形容を諌めないだろうかとも思う。読んでいると、荒川の美点も欠点もそんな「こだわり」の強さにあることに気付かされるのだ。あえてこの時代に古典を丹念に読み(のわりに多読しているから、この書き手の読書に俄然興味が湧くのだが)、そこから得たものを自分の平たい言葉で実感に忠実に、素直に書きつける。この書き手の読書はしたがって「無節操」「なんでもあり」な懐の深さを良かれ悪しかれ感じさせず、燻し銀の職人芸にも似た美学を匂わせる渋さがあると感じる2023/09/03
Yusuke Oga
8
自分だけが知っていたい、ひとにおしえたくない類の随筆である。すみずみまで、どんなにみじかい簡単な文章でも、そこには読むひと個人だけにどこまでもに深く響く、そんな言葉で満たされているという印象をもった。呼吸のような、ささやきみたいな読みやすい文章になるほど、内容が高度な、わかりにくい複雑なものになるということに気づく。静かな、感知しずらい聴こえにくい微細な音を聴くために、空気が張りつめる。そういう冷ややかな空気がつくられていると思った。黒島伝治というしらない作家の小説が読みたくなった。2014/06/11
のんき
5
読書を中心としたエッセイ集。2005年9月刊。私も地図帳を傍らに読書するのが好きなので、地図の話が出てくるととても嬉しい。2012/07/08
はみ
2
「忘れられる過去」を読んだときから、自分でも随分見当違いなことだとは分かっているんだけれども、残酷な人だな、と思っている。あまりに本当のことや正しいことを言うのは、残酷じゃないか。しかし、残酷だと思いながらも、参りましたと手をつきたくなるほど好きな文章。図書館本だが、この本は欲しい。一番好きなのは「春は冬」。2015/03/12
1
再読。荒川洋治が映画について語った文章は少ない。「世界のO」は、O(小津?)はK(黒沢?)より映画・文芸評論家たちに評価が高く、「Oをいいといわなければ映画を語れない空気」であるが、自分にはOの映画は「単調で退屈」で、ひとつ見れば飽きるものだ、Kの方が「けたちがいにおおきな映画」を作った人だ、と批判する。こういうところが荒川洋治の面白いところだし、意外に痛いところを突いているなとも思う。映画を知る人たちに怒られそうな「断言」であるが……。イチャンドン の「オアシス」を観た感想も面白い。2021/02/09




