内容説明
物干台で凧を揚げていて、東京初空襲の米軍機に遭遇した話。戦中にも通っていた寄席や映画館や劇場。一人旅をする中学生の便宜をはかってくれる駅長の優しさ。墓地で束の間、情を交わす男女のせつなさ。少年の目に映った戦時下東京の庶民生活をいきいきと綴る。抑制の効いた文章の行間から、その時代を生きた人びとの息づかいが、ヒシヒシと伝わってくる。六十年の時を超えて鮮やかに蘇る、戦中戦後の熱い記憶。
目次
空襲のこと
電車、列車のこと
石鹸、煙草
土中の世界
ひそかな楽しみ
蚊、虱…
歪んだ生活
戦争と男と女
人それぞれの戦い
乗り物さまざま
食物との戦い
中学生の一人旅
進駐軍
ガード下
父の納骨
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
94
著者が体験した戦時中の東京が書かれている。戦争前はまだ逼迫した生活ではなかったが真珠湾攻撃のニュースから日本は破滅の道に進む。戦争が終わって言えることであって当時は国民のほとんどが負けるという意識はなかったという。そこに後半に近づくとウソで固めた大本営発表のニュース。著者は東京上空にポツポツと敵の戦闘機や爆撃機が襲ってくるところから東京大空襲まで、そして荒れ果てて死体が浮かぶ川や、焼け死んだ死体を見ることになり、次第にそういう光景に慣れてくる人という。そんな語り部の人はもう殆ど亡くなった現代。2024/10/07
じいじ
71
これまでうろ覚えだった〈東京の空襲〉を知ることができました。二十歳まえだった著者が、終戦のドサクサをキメ細かに書いた「戦争の爪痕」をよく知ることができました。戦争に負けた直後の日本の復興パワーに、その力強い凄まじさを感じました。いまの日本はどうだろう。折しも、総選挙を終えたばかりの現在をみると、自分たちの頭の蠅も追えない体たらくの「国会議員」、そして庶民のことなど眼中にない大手「経済界」のトップには、まったく期待できそうにないが…。戦後80年、よく働く日本人の実質賃金水準が、こんなに低いのは…誰のせい?。2024/11/03
nnpusnsn1945
68
自粛生活と戦時中の生活は重なる部分が多い気がした。非常時には人情にも変化するらしい。(顔馴染みの八百屋も、金目の物を出さなければ売ってくれなくなった。)オイルショックのトイレットペーパー不足も現在と似ている。空襲の経験、それに便乗したビジネスもあるらしい。(水道管や金庫の密売など)戦後は食糧不足も深刻で餓死者が出たが、なぜか子供と女性は少なく、老人が犠牲になったそうだ。著者は東京裁判には否定的な見解らしい。ただ、裁き方が雑でも、戦犯に全くの責任なしとは言えないだろうが。2021/04/24
mondo
57
吉村昭の記録文学の中でも多くの著作があるのが戦争ものだが、吉村昭がどのように戦時下を過ごし、著作に反映されているのか興味があった。驚くほどに詳細に当時のことを記憶されていることにまず驚かされた。一方で冷めたような描写も気になった。「進駐軍」という短編の最後に「私は、ほとんど無気力だった」と締めくくっているように、自分の目に映っているものが、無意味で、空虚な、愚かしい事実でしかなく、抗うこともできない社会だったからなのだろう。多くの人が感じていたに違いない。あらためて悍ましい時代だったと思った。2020/12/03
馨
54
吉村さんご自身の東京で経験した大東亜戦争と、見てきた戦後の日本を淡々と綴られています。読みやすくてスラスラ読めました。戦後年月が経って語れる人が少なくなった今自分が見てきた戦争(東京の町)をそのまま記録に残したいと、偏りや湾曲なく、見たままに思ったままを書かれていて、読んで良かったです。2015/03/07
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