内容説明
父の通夜にきた女の、喪服からのぞいた襦袢の襟の色(「桃色」)。女が出て行ったあと、卓袱台のうえに残された腐りかけた桃の匂い(「桃--お葉の匂い」)。濃密で甘く官能的な果実をモチーフに紡ぎ出される八つの短編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
こばまり
51
いやらしくておそろしくて。気付けば息潜め頁を繰る私。内側に潤みを湛えた女は確かに皆、桃だ。己の果実性をどこか持て余している。不穏な時代は小説にするとやけに魅力的だ。ならば現代もそうなのか。2017/02/03
橘
23
面白かったです。桃って官能的ですね。退廃的なエロティックさと湿度を感じました。「同行二人」が好きでした。2015/12/04
安南
19
桃に纏わる官能的な八つの短編。久世さんは二.二六事件や血盟団事件など、好みのモチーフを描いてくれるから嬉しいのだけど、なにぶんやり過ぎてしまう。ここで止めておけば品がいいのに、こってりと盛り付けるから、文学を通り越して演歌や昭和歌謡になる。それもまた魅力でもあるのだけれど。濃厚な味付けでちょっと胃もたれ気味。とはいえ「むらさきの」と「尼港(ニコライエフスク)の桃」それから、〆の「桃 お葉の匂い」は素晴らしい。この三編だけでも充分価値ある短編集。2013/04/13
不在証明
14
空間に始終満たされているのは濃密なにおい。むせかえるほどの艶やかさと水気をはじく緊密さが同居している。モチーフである桃のイメージが刷り込まれているだけではないように思う。一定して果実の匂いに、死の匂い、病の匂いに血の匂い、短編ごとそれぞれ異なる薬味が入る。どれも粒ぞろい、端から賞味できる幸せ。2016/09/11
中禅寺 桜子
13
久々の久世作品、何とも耽美な世界観で大人の読み物です。 桃にまつわる短編集ですが、前篇から甘くて濃厚な色香が立ち上ります。 殺人も探偵も解決も無いので、サクサク読み進める感じでは無いですが、色っぽくて良いですよ^^2014/08/25