内容説明
ヴェトナム戦争直前のサイゴンで水死体となって発見された一人のアメリカ人青年の死の真相を、友人の英国人記者ファウラーは静かに回想していく――若いアメリカと老獪な欧州の報われない邂逅を描き著者の転換点となった記念碑的名作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
らぱん
60
リアリティとアクチュアリティに感銘を受けた。舞台は1950年代初頭のインドシナ戦争下のベトナムなのだが、地域に限定されることなく、20世紀の世界の趨勢を俯瞰することが出来、断片的な知識が繋がり像を結び、新たな視点を獲得する喜びを覚えた。 語り手は駐留の英国人記者で、彼の現地妻を半年前に奪った米国人が殺害されるところから始まる。人物と出身国が重なり、落日の欧州、新興国アメリカ、蹂躙されるベトナムが浮かび上がってくる。世界の混迷や懊悩を描きながら、なおかつ普遍性のある人間ドラマとして成立している傑作だと思う。2020/01/31
星落秋風五丈原
39
ヴェトナム戦争直前のサイゴンで一人のアメリカ人青年パイルが無惨な水死体となって発見された。原題はファウラーのパイル評から来ている。二人の男性はそれぞれバックグラウンドの国(ヨーロッパ、米国)を表し、二人の間で揺れ動くフォンはヴェトナムの象徴とも読める。老獪な欧州が純粋な米国を打ち負かす様を男女の恋愛に仮したように見えるが、事はそう単純ではない。「無邪気」「純粋」は必ずしも褒め言葉ではないのだ。テロリストも見方を変えれば純粋である、と言えばその意味がわかろうか。2018/02/02
風に吹かれて
21
小説は1952年から55年に書かれた。インドシナ戦争の現場であるヴェトナムにグレアム・グリーンは何度も足を運んでいるそうだ。民族独立運動を抑え込もうとするフランスは闘いに疲弊するとアメリカに援助を求める。 そういう歴史を背景に、論説記事を拒み事実記事に徹しようとする記者ファウラーはフォンを愛人とし、フォンに恋心を抱くアメリカ経済使節団のパイルはアメリカの隠密作戦の一翼を担っていた。 →2023/04/15
駄目男
15
舞台はインドシナ戦争下のベトナム、語り手は妻子を本国に残し派遣されている英国人記者で、彼の現地妻を半年前に奪ったアメリカ人青年パイルが無惨な水死体となって発見されたところから始まる。背景となっている独立戦争は部分的な描写はあるが、踏み込んで、その経緯を紹介しているわけではない。本書は1955年に書かれたもので大変有名な本らしいが、私は知らなかった。因みに中野重治も本書を高く評価しているとあるが、然しどうだろうか、壮大なクライマックスへと高まるらしいが、どこが壮大なのか分らないし翻訳者とも気が合わなかった。2020/08/01
神太郎
15
人間ドラマでありながらその実各国のそれぞれの主張を描いているなかなかに手の込んだ小説のように思える。かつて世界を牛耳っていた欧州と第二次世界大戦付近から頭角を現し始めたアメリカ。そして彼らにとやかく言われつつも何もしない無垢(無知)なアジア。何だか今にも通じる部分があって興味深く読めた。再読したらまた印象がガラリと変わりそう。2016/10/25