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内容説明
一九三二年三月、中国東北地方に忽然と出現し、わずか一三年五ヵ月後に姿を消した国家、満洲国。今日なおその影を色濃く残す満洲国とは何だったのか。在満蒙各民族の楽土を目指すユートピアか、国民なき兵営国家なのか。本書は、満洲国の肖像をギリシア神話の怪獣キメラに譬えることによって、建国の背景、国家理念、統治機構の特色を明らかにし、近代日本の国家観、民族観、そしてアジア観を問い直す試みである。吉野作造賞受賞。
目次
序章 満洲国へのまなざし
第1章 日本の活くる唯一の途―関東軍・満蒙領有論の射程
第2章 在満蒙各民族の楽土たらしむ―新国家建設工作と建国理念の模索
第3章 世界政治の模範となさんとす―道義立国の大旆と満州国政治の形成
第4章 経邦の長策は常に日本帝国と協力同心―王道楽土の蹉跌と日満一体化の道程
終章 キメラ―その実相と幻像
補章 満洲そして満洲国の歴史的意味とは何であったか
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
碧緑(あおみどり)
34
膨大な文献を参考としながら、コンパクトにまとまった良書。この本が書かれた当時「最後の満州国ブーム」が日本で起こっていたことは知らなかった。四季の「李香蘭」は観にいったけど。浅田次郎さんの満州国に関わる小説は日本人読者の目線を意識して耐えられる程度に脚色されているが、事実はやはり相当残酷なものだったようだ。何より、日本が満州と勝手に名付けた東北三省にはちゃんと住んでいた人たちがいて、土地も家もあったところを二束三文で買い取って(冬のさなかに)追い出した、そこに植民させたというのだから、正当化のしようがない。2021/10/10
skunk_c
34
久々に重厚な新書を読んだ気がする。満洲国という様々な人の思いの詰まった人造「国家」について、著者自身が苦しみながら筆を進めたことが文面からうかがえる。よって決して読みやすい文章ではない。しかし慎重に選んだ言葉の向こうに見えてくる像は、「傀儡国家」とか「五族協和」などの一言で表される単純なものではなく、本のタイトルのように、様々な思惑(それも時と共にうつろう)得体の知れなさで読み手に迫ってくる。日中戦争や日中関係を学ぶ者にとって、本書は必読書だと思った。Q&A形式の補論は本文より平易で理解の手助けになった。2017/02/16
かふ
29
「満洲国」についてのこれほど詳しく述べた本はないかもしれない。それも新書で。「キメラ」とは複合体のことで頭が関東軍、胴が天皇制、尻尾が龍で清帝国。ただ尻尾の清帝国は、しだいに関東軍と天皇制に侵食されて日本の傀儡国家となる。マルクスの引用、一度目は悲劇で二度目は喜劇だ、というのを清帝国に当てはめている。満州は理想国家としての実験国家であったという。石橋湛山の汎アジア主義、五族協和は孫文の五族共和と協の字が違う。日本と朝鮮が入ってくる。孫文はウイグルとチベット。王道楽土。入植者にとってのということだ。2021/08/19
ステビア
20
傀儡国家は高邁な理想の実現が潰える過程の後に発現した。2020/11/11
coolflat
18
補章のみ再読。325頁。日本から見れば満州は朝鮮半島のかなたに存在しているから、直接的にそれが問題になったというよりは、まず朝鮮の地政学的重要性についての認識があり、次にその接壌地帯として満州の意味が浮上してきた。それを象徴的に示すのが、1890年の山県有朋の首相演説にある「主権線」と「利益線」という考え方だ。そういう考え方に立てば、まず朝鮮半島を利益線として確保しなければならなくなる。この朝鮮半島に侵入してくるのは中国とロシアであるということになれば、日清戦争、日露戦争は避けがたい必然性を持つものとなる2017/07/04
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