ちくま文庫<br> 沈黙博物館

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ちくま文庫
沈黙博物館

  • 著者名:小川洋子【著】
  • 価格 ¥660(本体¥600)
  • 筑摩書房(2012/11発売)
  • ポイント 6pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480039637

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内容説明

耳縮小手術専用メス、シロイワバイソンの毛皮、切り取られた乳首……「私が求めたのは、その肉体が間違いなく存在しておったという証拠を、最も生々しく、最も忠実に記憶する品なのだ」――老婆に雇われ村を訪れた若い博物館技師が死者たちの形見を盗み集める。形見たちが語る物語とは? 村で頻発する殺人事件の犯人は? 記憶の奥深くに語りかける忘れられない物語。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

152
小川洋子に特有の、しかしそれにしても、これまでよりも一層に静かな静かな物語。なにしろ、そこでは生きている者たちのことごとくが「形見」を通じて死者たちに奉仕する世界なのだから。「耳縮小手術専用メス」、「沈黙の伝道師」、「泣き祭り」、「シロイワバイソン」など、異空間の物語世界を構成する要素も巧みに配されている。「沈黙の伝道師」は、萩尾望都の『スターレッド』の「夢見たちの杖」を連想させたりもするが。そして、物語の終盤は、ことさらに怖く、またやりきれないほどの孤独と絶望の、凍りつくような世界が用意されている。2013/04/27

ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中

137
その駅に降りたったのは彼だけだった。完璧な町はのどかで音もなく訪れる死は穏やかな春の陽ざし。なのになぜだろうあの町を思いだすとき、浮かぶのは世界を塗りつぶす静かな雪の気配だけだ。 少女はガラスの棺にシロイワバイソンは剥製に切り取られた乳首はホルマリンに漬けて飾られる。不穏な影が森を跋扈してもこの静けさが脅かされることは決してないのだと。それは安心かそれとも畏れなのか。生まれた記憶すらかじかむ指の先で結晶とともに淡く消えゆく。誰からも忘れられたこの地で、沈黙がまもる博物館がひそやかに訪れるものを待っている。2021/02/11

コットン

92
小川洋子さんにサインを頂いた本。小さな村の特別な沈黙博物館に係わることになる僕と依頼人や博物館のスタッフ達、沈黙の伝道師などが出てくるの話。具体的に話が進むのにつかみ所がない宙吊り状態に陥る所が面白く、興味深い。沈黙の伝道師の見習い少年が舌を氷に押し当てる所を僕が見て「いつしか僕は顕微鏡をのぞいている錯覚に陥る。少年の舌を、プレパラートに閉じこめられた細胞のように眺めている。」とか……。2017/11/16

エドワード

65
形見を英語で引くとmemento、memorialと出る。記念品と同じ言葉だ。しかし記念品と形見は違う。死者の魂の宿るもの、という響きがない。形見は日本語のみの表現だ。この作品はある老婆が村人の形見の博物館を建てる物語だ。主人公は博物館の設計技師。気難しい老婆に雇われる。老婆の養女である少女、庭師と家政婦が助手だ。剪定バサミ、糸巻き車、金歯、犬のミイラ。珍奇な物達が現れる所は「薬指の標本」と似た雰囲気。本作品の方が老婆の動機がよく理解できる。人々の優しい会話。喪われたものへの敬意。静かに物語は終わる。 2012/08/14

Jun_T(旧:Shima)

60
あぁ、小川洋子。なぜ彼女の作品が好きなのか、ようやく輪郭がつかめてきた。相手の領域には無闇に入り込まないその距離感と、底に秘めた残酷さが心を捉えて離さないように思う。本を読む時間がとれず2~3ヶ月かけてポツポツ読み進めたが、1ページだけでも本の世界に惹きこまれた。若干御伽色が強いが、文章の美しさ、背景描写の丁寧さを考えると、それも楽しみの一つとなるはず。ひっそりとした悲しみはこの作品にも感じられる。何と言えばいいか…身近な人を亡くしている方には、目を逸らしていた心の空白に気がついてしまうかもしれない。2012/09/15

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