内容説明
平成12年5月に愛知県豊川市で、17歳の男子高校生が「人を殺してみたかった」という動機のもと、見ず知らずの主婦を殺害した事件は世を震撼させた。最終的に医療少年院送致となった少年がその凶行に至るまでの過程を検証しながら、少年事件をめぐる様々な問題を気鋭のノンフィクションライターが抉る渾身の一冊。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sakai
27
犯人の少年視点での事件の流れの話から始まり、少年がアスペルガーだと診断されたことによる社会影響と事件との関連性についての話と続くが、あとがきに書いてあることが一番重要。「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに対して、誰にとっても納得がいく回答がまだないのかもしれない。少なくとも「論理的」という点では少年が語る動機の理屈は通っているように思えた。だけど、通っているから人を殺しても良いというわけでは決してない。著者の刊行にあたっての苦しみもそこにあるのではと思い、共感した。読めてよかった。2019/08/29
うさうさ
11
「なぜ人を殺してはいけないのか?」の問いに私は答えを持っていない。当たり前すぎて、そんな事を疑問に思ったことさえないからだ。この少年と何が決定的に違うのかな。後半で少年がアスペルガーだと解ってからは、事件と障害は深く関係はないとしつつも、障害にしか落とし所がないかのように読める。もやもやが残ったまま読了。2014/09/23
椿
10
事件は忘れていたけど、「人を殺してみたかった」という言葉はインパクトがあってよく覚えてたよ。読むほどにドロドロと暗い気分になっていったので、さーっと読了。2016/04/27
うたまる
3
「人を殺してみたかった」という供述で有名な、豊川市主婦殺人事件のルポルタージュ。本事件の不可解さの根源にあるのが、17歳の犯人の”共感力”の低さ。司法関係者や医師、メディアはそれを問題視した訳だが、共感力が低い、というのはそんなに不思議なことだろうか。我々は食べるために動物を殺しているし、世界には餓死する子供がいることも知っている。知っていても我々は日々それなりに楽しく生きている。共感力とは、要は匙加減の問題だ。本音と建前もそうだが、若者がそのバランスを体得するまでの不安定期に起こった不幸な事件に思えた。2020/11/07
JunTHR
3
佐世保での女子高校生殺害事件を受けて、急遽増刷とのことで、大学以来に再読。まだまだその名前が世間的には知られていなかった頃のアスペルガー症候群の少年による「体験殺人」。少年の言葉や思考には理解はできるが共感は出来ないとても不思議な感覚と論理があり、そんな彼に殺されてしまった被害者とその遺族のやるせなさを考えると本当に落ち込んでしまう。少年法に隠された事件の実像をできうる限り明かそうとする努力と、アスペルガー症候群と犯行の関連をかなり慎重に書く誠実さ。あとがきと解説も素晴らしい。2014/09/20