内容説明
頭の上に猿がいる。話しかければクーと鳴き、からかえば一人前に怒りもする。お前はいったい何者だ――。近所の仲間と茶飲み話をするだけの平凡な老後をおくっていた作次。だが、突然あらわれた猿との奇妙な「共同生活」がはじまる。きっかけは、同居する嫁にほのかな恋情を抱いたことだった……。老いのやるせなさ、そして生の哀しみと可笑しさを描く、第11回小説すばる新人賞受賞作品。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
116
突然頭上に猿が見え始めた老いた男が主人公の物語で、ユーモラスで哀愁漂う長編。プロットが地味な点が惜しいが、それでも味わい深い内容だった。作次は実直な職人として生きてきて、現在は息子夫婦と同居中。彼は息子の嫁に恋心を抱く。この気持は切なくて、可笑しかった。近所の喫茶店のおしゃべり仲間たちが良い味を出している。特に60歳を超えても結婚したてのカップルのように仲の良い房江さん夫妻は、魅力のある登場人物。結末近くで彼らの本当の姿が分かる場面は、時代小説の市井もののような、しみじみとした味わいを感じた。2018/07/17
ふじさん
96
小説すばる新人賞受賞作で池永陽のデビュー作。古い本で20年ぶりの再読だが、主人公の年代に近い分、以前に読んだ時とは、違った読後感がある。60代後半の3人の老人が主人公の話だが、語られる内容は身につまされる。突然あらわれた猿と作次の奇妙な関りが心を和ませる。誰にも訪れる、老いや死への恐怖、どう向き合うか問われる。ここに描かれているのは、人間という生き物に共通するやるせなさであり、もの哀しさであり、可笑しさである。もがいて、あがいて生きる人間を肯定し、その行き着く先を温かく見守る作家の眼差しがいい。2023/01/04
まさきち
73
どこにでもいそうなジイサンが主人公の物語。ただ他と違うのは、頭の上に本人しか見えない猿が居座っているということ。そんな珍妙な状況から始まったものの、突然の息子夫婦との同居への戸惑いや、自らの老いへの怯え、馴染みの喫茶店店主の娘が身を投じている常ならぬ恋への心配など、ジイサンのかわいらしさや人の良さがにじみ出たあたたかい物語。読み終わってほっこりとする、池永陽さんらしい一冊でした。2020/05/09
じいじ
72
「走る…」に惹かれて10年前に積んだものの、いまは残念ながら「走れないジイサン」になってしまった。さて、主人公の69歳と66歳の老人二人の気楽(?)な日常が始まります。彼らを若い連中の視点で見ると少々「ずれて」いるのに、ジジイ二人は気づいていません。ある日突然、一人のジジイに一大事が…。子供も巣立ち、これから二人だけの生活が…と思っていた矢先に…。妻から「別れましょう!」の申し入れ。夫はおたおたしてしまいます。まったくもってオトコは弱いものです。池永さんのデビュー作ですが面白いです。2025/02/15
たぬ
40
☆4.5 『珈琲屋』からはいったん離れて小説すばる新人賞受賞のデビュー作を。面白かったです。高齢男性のリアルが垣間見れるようで読み応えがありました。加齢による心身の衰えや嫁との関係、同性同世代との交流、ときめきなどなど。確かに年寄りだから恋をするなってのは理由になってないよね。猿はあまり気にならなかったな。2021/12/21