内容説明
読んだ講釈が幕府の逆鱗に触れ、種子島に流された大坂の講釈師瑞龍。島での余生に絶望した瑞龍は、流人仲間と脱島を決行する。丸木舟で大海を漂流すること十五日、瑞龍ら四人が流れついた先は何と中国だった。破船した漂流民と身分を偽り、四人は長崎に送り返される。苦難の果て、島抜けは見事に成功したかに思えたが……。表題中篇をはじめ、「欠けた椀」「梅の刺青」の三篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
126
江戸から明治にかけての短編3編。「島抜け」は流刑地の種子島からの逃亡。内容は「漂流」も思い出す。種子島から豊後に渡る筈が波浪に流される。遂には清に流れ着く。清から長崎へ送還されるが島抜けの罪が露見する。飢饉の悲惨さを描く「欠けた椀」。日本初の献体と解剖を描く「梅の刺青」。徹底した考証と調査、聞取りにより迫真の内容となり実に読ませる。質感あり、知られざる日本の歴史の一面を照らす。吉村昭さんの作品により、埋もれずに済んだ様々な歴史や偉業があると思う。いずれは吉村昭さんの全作品を読みたい。安定感ある短編集です。2020/09/23
kinkin
117
講釈師端龍が種子島に流刑、脱島、漂流そして逃亡を描いた表題作「島抜け」他「欠けた椀」「梅の刺青」からなる。吉村昭作品は漂流ものや逃亡ものが多い。そのなかでも短いながらもテンポのよい展開の本作品は読み応えがあった。なかでも『破獄』や『長英逃亡』、『桜田門外の変』のような逃亡ものは読んでいて飽きさせない。時は1860年台、幕府にとって都合の悪いことを講釈されたことで罪人とされたがよく考えると今、政府にとって都合の悪いことは封殺される時代になりつつあるのではないか。他2作品も秀作だ。2018/07/04
ケンイチミズバ
104
ロシア文学かと。あまりに軽微な、罪とも言えない事で流刑を言い渡される不条理。真田勢に攻められた家康をほうほうのていと揶揄した。家康公を呼び捨てにした。高座での客受けを狙った演出にすぎないのにそれが政権批判なんて。権力が人の運命を握って弄ぶ。仲間の自殺、漁師が放置した船や唐国への漂着、掛け忘れた鍵、全てが運命の導きのようだ。黒船来航とロシアや英国艦隊の相次ぐ到来で忙殺された役人は事務処理的にズイリウへの刑を執行した。あんまりだ。人の命は磯に舞う枯れ葉じゃないのだけれど、淡々と受け入れてしまう姿が悲しい。2018/01/09
アッシュ姉
84
吉村昭さん20冊目。「流刑、脱島、漂流、逃亡」帯に踊るキーワードで面白さを確信できる。もとは十行ほどの記述から取材を重ね、読み応えのある中編へと仕上げた表題作は、ある講釈が幕府の逆鱗に触れ、種子島へ流された講釈師の行く末を追ったもの。本来であれば重罪に問われなかったであろう不運から始まった逃亡劇。働かなくとも雨風は凌げ、食べるものに困らない暮らしではあるものの、何の希望も生き甲斐もなく、ただむなしく過ごして死を迎える以外ない軟禁生活から抜け出そうとする。焦燥感や悲壮感はあまりなく諦観しているのが印象的。⇒2019/09/12
shizuka
67
表題「島抜け」徳川天下の中、ある講釈師が大坂冬の陣、夏の陣を物語る時、豊臣家は負けたけど、けっこう頑張ったんだよ!という真実に基づいて話し、豊臣愛に溢れる大坂人の心を掴んだら、はい!不敬罪!とお上の逆鱗にふれ御用そして島流しからの逃亡記。が、万城目さんの風太郎を読んだ後だったので、ああ、あの戦で風太郎も頑張ってたなあと何故かそこに深く心を持って行かれる始末。流刑地種子島での生活、島から出なければ、寝ててもいいし好きに暮らせる。現代人からしたらこれぞ流行のロハス。今なら応募者殺到して抽選になるほどだろうな笑2016/03/06
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