内容説明
心的外傷後ストレス障害(PTSD)。阪神・淡路大震災は人々の心に、癒えない傷を刻み込んだ。傷つく心とは? 心のケアとは? 自らも被災しながら、精神医療活動に奔走した、ある精神科医の魂の記録。
目次
第1部 震災直後の心のケア活動1995年1月17日~3月(私の被災体験 精神科救護活動はじまる 直後に発症した精神障害 精神科ボランティアの活動)
第2部 震災が残した心の傷跡1995年4月~96年1月(PTSDからの回復 死別体験と家族 その後の心のケア活動 避難所と仮設住宅の現実 変化してゆく意識)
第3部 災害による“心の傷”と“ケア”を考える(“心の傷”とは? “心のケア”とは? 災害と地域社会)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆいまある
96
夭逝した安先生。トラウマの専門家であり、阪神淡路大震災の折には日本中から集まったボランティア精神科医を纏めあげた人物(同じ時期に日本語話者最高の知性、中井久夫もいた)。震災直後から実に誠実に自分自身の心の動きを書き綴った本書。最初動揺と哀しみ、次は軽躁、そして抑鬱や疲労がやってくる様子がよく分かる。個別の診察よりもグループでのデブリーフィングが有効と感じられた。確かに大災害起きると躁病が増える。トラウマケアのベースとなる一冊。もっと早くに読んでおくべきだった。KU2025/03/02
せ~や
88
すごい一冊。震災時のボランティアは自己満足では?と思ってましたけど、この一冊を読んで、ボランティアの必要性を、もっと言うならただ「存在する」という事の大切さを実感。支援する・されるのタテ関係ではなく、する・されるではなく、ただ傍にいるというヨコの関係なんですよ。ぜひ、支援者・被支援者とかの言葉を使って活動している人達に読んでほしい。「苦しみを癒やす事よりも、理解する事よりも、苦しみがそこにある、という事に気付かないといけない」。その通り。どうするかではなく、ただそこにある事を一緒に感じる事の大切さを。☆52020/11/23
ネギっ子gen
67
【阪神大震災直後の記念碑的な書】自らも被災し、“野戦病院”と化した大学病院内で、<戸惑い、ぶつかり、出口を模索しながら、こころのケアのネットワークの立ち上がりの一翼を担った>著者による、魂の記録。本書でサントリー学芸賞受賞するも、2000年に癌のため39歳で早逝したのが惜しまれる。その震災から25年経った年に、NHKにて『心の傷を癒すということ』と題されドラマ化されている。師である中井久夫先生が序で記するように、「(著者の)悼みと願い、怒りと希望」をどのように読み取るか読み手が問われる読書になった―― ⇒2020/02/04
coco
27
安さんご自身も阪神・淡路大震災で被災されて大変な状況の中、震災によって「心の傷」を負った人たちに、精神科医としてどのようなケアを行っていくべきか考え、行動なされた記録が綴られています。精神科医としての立場からみた震災後の当時の様子が丁寧に書かれているので、私自身も「心のケア」がなぜ重要とされているのか、どのような役割を果たしているのかをきちんと理解するために考えながらゆっくり読み進めることができました。 (1万円選書①)2021/09/20
コージー
27
★★★★★阪神淡路大震災後の「心のケア」を語った、ある精神科医の実録。「復興という言葉は嫌い。壊れたものや亡くした人を蘇らせることはできない」という、家族を失い生き残った男性の言葉が紹介されていたが、明るい未来へ向かう「復興」を掲げた被災地には、素直には受け入れられない様々な思いが裏に隠されているのだなぁと、今さらながら思い知らされた。15年以上前の本だが、心のケアの奥深さを改めて実感できる、素晴らしい本だと思う。しかし解説に掲載されている著者の最期は、何とも悲しい結末である。2020/12/14