内容説明
二十六年前、飛騨白川郷。十二歳の私が住む合掌造りの家は、赤い炎に包まれ崩れ落ちた。焼け跡からは、父母の遺体が。火事は私の心までも焼き焦がした。……今、私の眼前に、その家が当時のままに現れた。技術が作り出した仮想現実。そこには父と母、そして〃彼女〃もいた。浮かび上がる苦い真実に私は……。〃祈り〃と〃救い〃――幸福の「明日」を問う表題作ほか全四編!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
眠る山猫屋
47
これが20年~30年前に書かれた事を思うと凄い。VRで失われた建築物を再現した時、共に蘇る悲しい記憶の表題作。デビュー作『残像少年』の素敵さに痺れる。ミステリアスな女性・ほたるに導かれるように惑わされるように喪われた過去の街に引き戻される主人公。そら惚れてまうやろ~な魅惑的なほたる。ほたるだけでなく、『湾岸少女』の主人公と愛人の娘の掛け合いなど、蠱惑的な女性を描かせたら巧みだなぁ。まぁ個人的なツボだっただけかもしれないが。2020/10/18
茶々
4
ネットのおすすめ小説の中にあったので読んでみた。絵描きだけあって描写が正確で美しい。くっきりとした情景が目に浮かぶ小説だ。良い本でありながらあまり読まれもせず、読書家の集うこのサイトで感想も書かれていないというのは悲しいことである。2012/09/29
kinshirinshi
2
独特な世界観を持つ作家・薄井ゆうじさんの短編集。建物と時間をモチーフにし、都会と田舎、あるいは主人公の現在と子供時代を対比させたような話が多い。ヴァーチャルリアリティで「家族」を再現させるなど、書かれた90年代のS F的な発想も含まれる。相変わらず宙に放り出されるような不思議な結末(話によっては結末がすっぽり欠け落ちているような印象さえ受ける)だが、短編だからか、長編を読み会えたときほど消化不良な気分には陥らなかった。2019/10/22
00541381
2
しかし読まれてない…ほんとにいい作家さんだと思うんだけどなぁ…。大人になることを拒否しているような、大人でいることをよしとするようなやわらかな結末の中編5作。2013/12/22
マグカップ
0
文章があまりにも美しく、最後には感動的な余韻が襲ってくる。他の作家で喩えるのは失礼かもしれないが、アクの強さを抜いた村上春樹みたいな作風で私は大変気に入った。お気に入りは湾岸少女。2022/06/03