内容説明
東京の兜町で株式売買をする重住高之は、大阪の北浜の株のやり手仁礼文七の娘泰子に心惹かれている。だが、――文七はあくまで高之に熾烈な仕手戦をしかけて止まない。金の絡みと高揚する恋愛の最中、悲劇は連続して起こる。資本が人を動かし個人が脅かされる現代に人間の危機を見、「純粋小説論」を提唱実践した横光利一が、その人間崩壊を東と西の両家の息づまる対立を軸に描いた家庭小説の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
17
横光の一番の傑作は本書なのかもしれない。株式売買と男女の恋愛感情を絡み合わせ、個人ではなく、それぞれの関係こそを小説の主役とすることに成功している。「機械」をさらに拡大させたような入り組んだ人間関係は、株による互いの利益をもとめ、皮算用をする。高之は泰子と相思相愛なのに、泰子の父・文七は父を殺した原因を作った商売上の敵で… さらに練太郎という商売敵やほかに三人の女が入り交じる。煮え切らない高之に同化して読んでしまうとイヤになるが、一歩引いて、虚構として読めば、こんなにもおもしろい作品はない。2014/06/30
さざなみ
3
読書メーターのなかで偶然見つけた面白そうな本、横光利一の小説は50~60年ほど前に読んだことだけを記憶しているが中身は何も覚えていない。 なんと中身の濃いエンターメント小説ではないか。 昭和10年頃の社会情勢が良く分かり個性豊かな登場人物たちの生きざま、絡み合いが面白くあっという間に読み終えた。 大きく変わってしまった現在の状況と比較して当時の様子を楽しめる読み応えのある内容でした。2022/09/02
JVSTINVS
2
株の先物取引のシステムへの無知から、私にはところどころ読みづらかったが、登場人物たちが続々と追い詰められながら、それでも生きんとするヴァイタリティを握れたり握りそこねたり、というのが金融を通じて描かれ、ついに「家族会議」の代わりのような機能を示す。言葉がその力を失う時代を見事に描く。2022/05/08
Shue*
1
単純に面白い。川端が描く女が通り一辺倒なのに、横光の描く女ってのは、どうしてこうも生々しいんでしょう。 ヒステリックだったり、情念を隠し持つ図太さだったり、そういう女の諸相が、要所要所で万華鏡のように展開されるこの面白さは、今のキャラクターありきの恋愛小説では書けないだろうなあ。 それと、男という生き物のしょうもなさが、渾然一体。どん底に叩きつけられて、漸く自分の生きざまが楽になるって。でも、男ってそんな生き物だよね。妙に納得しちまった。2009/10/15
大福
1
昭和初期の恋愛小説かと思いきや、社会派経済小説へ、と思いきややっぱり恋愛へ、と筋が動きつつ、いつの間にかそれらが複雑に絡まって一つの筋になる。ぐいぐいと引き込まれます。女性と男性、旧家と豪商、関東と関西、さまざまな対立が絡まって物語が否応なく、こうなるしかない、というように展開する様は、この作家の神髄を見せられた感じがして、圧倒されます。2012/12/27