内容説明
歴史の不条理や官僚制を告発する、きわめて深刻・まじめなカフカ――この定番のカフカ像を手放すと、どんな新しいカフカが立ち現れるか? そのみごとな見本がこの「ちいさなカフカ」である。これは数多あるこちたき作家論の類ではない。著者は、散歩のようにゆったりとカフカの周辺を巡りながら、しかし肝心のところは看過せず、その等身大の姿を紹介してゆく。道すがらふと摘みとった作品や伝記の断片から、カフカの〈生のスタイル〉が透けて見えてくる仕組みである。「ほんのちょっとしたこと、ちいさな手がかりからカフカに入ってみた。そのつど考えたり、気づいたり、連想したことを書きとめた。動いていると風景が変わり、目の位置が変化すると別の景色があらわれるように、いろいろなカフカが見えてきた」女性たちに送った夥しい手紙の数奇な運命、大の映画好きであったカフカと『審判』の関係をはじめ、賢治のクラムボンとオドラデク、『ライ麦畑でつかまえて』と『アメリカ』、さらに多羅尾伴内・長谷川四郎・クンデラに通底するカフカなど。われらの隣人カフカを知るための格好の道案内。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
33
カフカはシニカルで寓話的な作風で「難解」というイメージが強い。しかし、この本を読む限り、カフカも几帳面だけど、仕事の愚痴も溢し、恋に奥手、家族想いな一人の「人間」だったのだなと思える。また、カフカ作品の翻訳の第一人者の作者だからこその「カフカ愛」を存分に感じられるのも微笑ましい。筆まめだった所や宮沢賢治とカフカの共通点は興味深く、読めました。2016/08/17
kazi
13
なかなかよかった。カフカが身近になった気がする。カフカの生きた時代と人、街についてゆっくり散歩するように紹介した本。お堅い作家論じゃなくて少々ゆるい感じののんびり読める本でした。2020/02/15
Christena
11
少し前に読んだ『この人、カフカ?』と構想は似てるかも。こちらは断片ではなく、もう少し長めのエッセイ。カフカの人間性を垣間見ることができるエピソードには違いないけど、少し著者の考察が入りすぎているような印象を受けた。2017/07/23
Tonex
6
著者が《この十年あまりにいろんな場で発表したものから十篇を選》び、加筆したり削ったりして編んだエッセイ集。▼「講釈師 見てきたような嘘をつき」という言葉があるが、この人は文章をわかりやすくするために話をざっくりまとめてしまう傾向があるので、カフカの伝記部分にしろ、小説のあらすじにしろ、書いてあることをそのまま信用してはいけない。▼最後の「ひとり息子」は話そのものが怪しい。プラハでカフカのただ一人の息子と名乗る男から『変身』のモデルになった虫の標本を見せられる話。面白いが、作り話のような気がしてならない。2015/12/17
mimm
3
カフカに関して、その作品や遺された手紙、知人の記憶などちょっとした手がかりから、分かりやすく道案内してくれる一冊。 カフカがより身近に感じられ、作品の理解をより深めるにも最適な一冊です。 最初の「手紙の行方」には、裏に潜む悲しい犠牲もちらついて、ひどく胸が痛みました。 久しぶりに作品の再読をしたくなりました。2013/06/15
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