内容説明
今日も波止場に大陸からの引揚船が着く。睦は独りそれを待っていた。あの海の向こうの都市で過ごした、失われた幸福な日々。生き別れになってしまった兄と阿媽(アマ)のことを想いながら――。そして、港町の一角に出来た華人の市場で、彼は懐かしい上海から来たという、不思議な男に出会う……。過ぎ去った時代に生きる、少年たちの姿を詩情豊かに描く作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
91
昭和初期の懐かしい雰囲気漂う短編集でした。幻想的な空気にほのかな官能の香りが豊かな詩情を際立たせています。懐かしさと切なさを感じました。凛一シリーズの『白昼堂々』が収録されていますが、この短編をベースにしているのかなと思いました。女性が普通に登場するのはこの頃の長野まゆみ作品にしては珍しい気がします。2015/11/05
なつ
32
昭和時代のひとときを切り取った作品集。ノスタルジックな情景と切なさが重なる。様々な年代を舞台に少年と女性の交わりが淡々と、でもどこか官能的に描かれ、言葉の選び方がとてもきれい。そこに登場する女性は狡猾さやしたたかさが強く出されているけれど、嫌いになれないです。彼女たちにも哀愁が感じられるからかな。一番好きなのは「幕間」。2019/05/11
冬見
24
そこから一歩も動けなくさせるような、閉塞感が強い作品が多い。少年たちは理不尽な目に遭うけれど、それでも"いくつかの選択肢の中から選んでそこへ来た"というものが多く、一見流されているようでありながら意志はきちんと持っていて、弱いながらも非常に強か。クセの強い女性陣もいい味を出してる。「雪鹿子」「上海少年」「満天星」「幕間」「白昼堂々」の5編。凛一シリーズを読み返したくなった。2017/02/03
備忘録
23
1番新しい時代でも学生運動全盛期あたりで、昭和のレトロな雰囲気 文体もその世界観に合わせて使用されていてしっかり世界観が完成されている ノスタルジックな世界でそれぞれ奇妙な関係の男女又は男同士のやり取りを味わう作品2025/05/27
橘
21
面白かったです。レトロな雰囲気が素敵な短編集でした。「上海少年」「白昼堂々」が好きでした。2015/01/20