内容説明
詩集『渡世』で高見順賞を受けた現代詩作家による、待望のエッセイ集。「一日をまるまる空ける。そして人と話をして過ごす。それができたら、しあわせだと思う。」「電車のなかで、二人が語らっている。そのうちの一人が、どこかの駅に降りていく。残された人の表情を見ると、みじかい間ではあれ、人が人とふれあった痕跡が、その顔に残っている。それは、消えていくものであるが、すぐに消えるわけではない。ろうそくの焔のようにしばらくの間、目もと、口もとをうろついている。別れた人と、まだ話をしている。そんな表情の人もいる。」こんなふうに、明るく繊細な文章で書き留められているのは、ゆっくりと、でも確実に変わっている世相と社会、食べ物、作家や本のことである。それをつらぬく思いはひとつ、この国が失っているのは心である前に、まずは言葉なのだということ。その場その場で人間らしくあるために、言葉はある。あきらめ多き人生にあって、知恵と勇気をあたえてくれる、文学の実用書。
目次
白い夜
春の声
ふたり
希望の針
一本のボールペン
抱いて
これからの栗拾い
それからの顔
言葉に乗る
慈愛の顔〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かやは
10
詩人のエッセイ。自然体だなあ。静かに語っている文章。威圧感のない、思想を語ることのない、仕草を描写することが文章の魅力なんだと気付かされる。ときどき素直にエッチで微笑ましい。「無知はさみしいもの」世の中は知れば知るほど楽しめるものだと思う。 2015/07/17
かりあ
6
荒川さんのことばはいつだって正直、まっすぐ、素直、純粋。文章は素直に書くことが、いちばんよく人に伝わるんだろうかなぁと、荒川さんの書いた本を読むたび思う。2010/04/23
がろん
4
エッセイの中ではこの人がいちばん好き。オリジナリティを出すために、奇を衒ったり、やみくもに毒を吐いてみたりなんかしない。物事を見る目がちょっと素直なだけで、世界に対してちょっと正直なだけで、誰も真似できない荒川洋治のエッセイになる。2014/04/17
かつみす
3
【電子書籍】雑文=エッセイ集なので、気の向いたところから読むことができる。話題は様々だけれど、中心になるのはやはり文学。荒川氏の文章は分かりやすくて軽みがあるな、とずっと思ってきた。そんな文章スタイルの裏には、この人なりの思想のようなものがあるのだということが、「おかのうえの波」というエッセイを読むと分かる。〈世間〉と対峙しなかった宮澤賢治をもちあげる風潮を批判したり、今どきの詩人たちが自作しか朗読しないことにカツを入れたり。そんな気骨のあるアウトサイダー的な詩人の顔が見える第3部あたりがこの本の肝かな。2014/12/11
karin10
1
川上弘美さんの書評集で紹介されていたので手に取ってみた。詩人という立場から、詩に関するものが幾つかあり、「声」では詩人の朗読というか、朗読会を毛嫌いしてる様子。「文字として読んですばらしい詩は音読にも堪える」という主張はその通りだけど、私は自分で朗読したり、他の人が朗読したのを聴くと言葉の余韻を楽しめて好きだ。「ペンから土へ降りていく」では詩の直訳の良さ、「一人」では作者の側に立って作品を内側から見ることについて書かれていて面白かった。順番が逆になってしまったけど今度は詩集を読んでみたい。2022/10/22