内容説明
締切の夜、書斎は険しく暗い。しかし一人ではない。開け放った窓に響くトラックのエンジン音や、本棚におさめたドイツ製のクレヨン……。何気ない物事がいのちを帯びて、わたしのペンを鼓舞し、触発する。わたしは今夜も、彼らに囲まれてペンを走らせる。――その書斎は、後に阪神大震災によって壊滅した。追憶の思い新たに、震災時の日記を併録する。
目次
生きものたちの部屋
絵具
インクと万年筆
エーゲ海の壺
軽井沢の仕事場
腕時計
地球儀
へんてこりんな犬
ゴルフ道具
再び、ゴルフ道具〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
KAZOO
119
この本は宮本さんの珍しい随筆です。私はほとんど宮本さんの随筆は読んだことがなく多分はじめてでしょう。クレヨンや万年筆の話から始まり、犬、書斎など楽しい話が多く入っています。ただ阪神大震災で書斎がなくなって、その後の日記も掲載されています。やはり結構この時には無気力になったということが書かれています。よく書き残したと思いますが大変だったのでしょうね。2018/05/17
kinkin
71
エッセイ集。「絵具」「インクと万年筆」「地球儀」が読みやすくよかった。「へんてこりんな犬」、飼い犬について犬の大阪弁がユーモアあふれていて著者の暖かい眼差しを感じた。阪神大震災に対するやりばのない怒り、これは経験した者でないときっとわからないと思う。そういう自分も経験したことはないが震災のしばらく後仕事で神戸についたときのことを思い出した。2016/09/19
美雀(みすず)
42
面白かったです。宮本先生のコテコテな関西弁で軽快に読み進められる文章はなんか安心してしまう。物一つにしても小説のネタが隠されているようで宝物探しみたいな読書タイムでした。愛犬マックがかわいかったです。阪神淡路大震災の克明な記録に恐ろしさを感じました。2016/11/15
佐島楓
32
エッセイ集。宮本さんの執筆環境、お好きなものなどが書かれている。マックという飼い犬の愛らしさは、ペットを飼ったことがあるかたなら理解できるだろう。本当に、姿を見ているだけで細かいことがどうでもよくなってしまうものだ。阪神大震災のときはたまたまご自宅にいらっしゃらなかったようで、ご無事でよかったです。あの震災も遠くなってしまった感があり、心にとどめておこうと当時のことをいろいろと思い返しました。2014/08/18
B-Beat
19
★3冊目の宮本輝エッセイ集。1995年発表の作品。最終章は「平成7年1月17日からの日記」。本作品では作家としての宮本さんの日常がざっくばらんに出し惜しみすることなく書かれているという感じがした。震災以降宮本さんの作風が変化したと言われるが、そこらあたりを十分予感させる最終章でもあったかなと。やはり宮本さんの文章は自分には馴染みやすいと再確認。2013/04/07