内容説明
16歳のヴラジーミルは、別荘で零落した公爵家の年上の令嬢ジナイーダと出会い、初めての恋に気も狂わんばかりの日々を迎えるが、ある夜、ジナイーダのところへ忍んで行く父親の姿を目撃する……。青春の途上で遭遇した少年の不思議な“はつ恋”のいきさつは、作者自身の一生を支配した血統上の呪いに裏づけられて、無気味な美しさを奏でている。恋愛小説の古典に数えられる珠玉の名作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
519
ウラジミールが16歳当時の、はつ恋を回想するスタイルをとっているが、これを相手のジナイーダの側から見れば、また違った物語になるだろう。ウラジミールをはじめ何人もの男たちを周りに侍らせる彼女は、さながら奔放な女王であるかのようだ。しかし、その一方で没落貴族の娘である彼女には、実は恋の対象となる男性がいない。世が世なら公爵令嬢なのだ。そんな彼女が恋に落ちるのは、まさしく背徳においてしかなかったのではないだろうか。境遇は全く違うのだが、『三四郎』の美禰子を思わないではない。それにしても結末は、ことさらに哀れだ。2015/02/09
yoshida
224
恐らく高校生の頃に読んで以来の再読。ウラジミールが16歳の時に別荘地で芽生えたはつ恋。そのはつ恋が苦く潰えるまでを描く。若さ故の純粋さが瑞々しく描かれています。はつ恋の相手は21歳のジナイーダ。没落した侯爵令嬢。溢れ出す魅力により、彼女は崇拝者を持つ。ウラジミールも崇拝者の一人となる。高慢な彼女がやがて恋に落ちた相手は、ウラジミールにとって残酷なものだった。モスクワに戻り父を喪い、ウラジミールはジナイーダの消息を聞く。再びジナイーダを訪れた彼を待つ残酷な結末。深い郷愁を感じる。時代を経て読み継がれる傑作。2017/04/21
ハイク
154
三人それぞれの初恋の話をすることになったが、二人は経験がないとか、面白い話でないとの事で一人の話になった。この話は著者自身の実体験が基であると言う。主人公のウラジミールは16歳で相手はジナイーダという21歳の娘に初恋をした話だった。彼女は魅力的な女性で数人の男性に囲まれており、女王様気取りであった。そんな彼女にウラジミールは初恋をした。本では「わたしの情熱はその日から始まった。・・・もう一つその上に、わたしの悩みもその日から始まった」と描写している。ツルゲーネフは初恋の心情や状況を見事に捉え書き記した。 2016/10/19
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
149
無償の愛というものを手に入れたような気になってた。買ってきてよ私に苺のショートケーキ、床に投げ捨てた私に「遅くなってごめんね」と言って泣きやむまで髪をなでてよ。底抜けに優しくしてほしい。なんて嘘。イライラするの哀れであればあるほど私がまるでイヤな女みたいじゃない。幸せそうにかしづく顔をみると叩き潰したい、叩き潰された幸福悲しげにみつめる顔をみて初めて優しくしたかったと気づくの。後悔はいつも手遅れになってからやってくる。終わってしまった恋をいつまでも愛でるのはやめなさいみじめたらしいわ。2020/10/22
takaichiro
132
16歳の少年が抱く5歳年上のお姉さんへの恋心。多感で溢れんばかりの有り余るエネルギーを抱えながら、目の前の異性に夢中になる。初めての感覚に戸惑い理性は働かず、冷静な心理状態ではいられない。この気持ちを抱える自分をどう扱ったらいいか、救いを求めてもピッタリの答えは与えられない。長い人生の中で一番の蜜の味。大人になる旅路の途中に通る道。あの純粋に苦しんだ時期が懐かしい。それを乗り越え落ち着いた大人の恋愛を楽しむ自分はただ老いたのか、はたまた人生の花々を愛でる存在か。少年の父親はこの物語のアクセント・・・2020/02/10