内容説明
桜田門外の変から4年――守旧派に藩政の実権を握られた水戸尊攘派は農民ら千余名を組織し、筑波山に「天狗勢」を挙兵する。しかし幕府軍の追討を受け、行き場を失った彼らは敬慕する徳川慶喜を頼って京都に上ることを決意。攘夷断行を掲げ、信濃、美濃を粛然と進む天狗勢だが、慶喜に見放された彼らは越前に至って非情な最期を迎える。水戸学に発した尊皇攘夷思想の末路を活写した雄編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
94
第21回(1994年)大佛次郎賞受賞作。吉村さんらしく膨大な量の史実を積み上げることで、天狗勢の哀しい末路を淡々と描き切った作品です。台詞や構成による悲しみとかの演出は一切せず、事実は全て提供するから、あとは読者自らが感じてくれということなのでしょう。人々をあれほどまでに沸騰させた尊皇攘夷とは一体何だったのか、慶喜が自分を頼ってはるばる水戸から京都までやってきた人々に対してあれほどまでに冷酷な仕打ちをしてまで守らなければならなかったものとは一体何だったのか。歴史って謎だらけ、やめられませんな。2018/04/12
yoshida
89
幕末の水戸藩。藩内は攘夷派と佐幕派で割れていた。攘夷派の内でも、特に思想が先鋭だった藩士等は天狗党を結成。攘夷を目的に挙兵する。党内でも無頼の集団の強引な軍資金集めに悪評が高まる。幕府は征討軍を差し向け、佐幕派が牛耳った水戸藩や各藩にも征伐を命じる。進退極まった天狗党は一橋慶喜へ嘆願の為に京を目指す。際立つのは慶喜の薄情さ。実質的に天狗党を見殺しにする。鳥羽伏見での逃亡にも通じよう。また、内紛で数多の人々が死亡した水戸藩は人材が枯渇し明治新政府では影響力を欠く。現在でも水戸では禍根が残りそうな事件に驚く。2024/05/05
読特
70
勝者は讃え、敗者は美しく描く。幕末劇の定番。維新で日本は植民地になることを免れ、先進国の一員となる。開国派と攘夷派がせめぎあい幸運にも成し遂げられた奇跡。その過程で生まれた多くの犠牲。…元治元年、栃木町。悲劇が起きる。焼き払われた家並み。路頭に迷う町民。家族を殺され怒りは心頭に発す。天狗党憎し…舞台は水戸へ。門閥派対攘夷派。それぞれの言い分。どちらにも肩入れできない。…敗れた攘夷派と天狗党の合流。京への旅路。様相が変わる。畏敬もされる。…降伏。痛々しい結末。それが綴られるのも歴史。こんな人々もいたのだ。2023/05/15
kawa
46
幕末の水戸潘、尊王攘夷の激派、鎮派そして門閥派の激烈な争いが描かれる。こんな悲劇があったなんて・・・知らなくて・・正に絶句。今の感性からは到底理解不能な事件、どなたか識者の論理的分析を聞きたい気分。かの地では,未だ冠婚葬祭等でどちら派か気にする人もいるそうな。2019/03/21
i-miya
46
2014.02.08(02/08)(再読)吉村昭著。 02/05 (カバー) 桜田門外の変から4年、守旧派に実権を握られた水戸攘夷派は農民ら1000余人、組織、筑波山に勢揃い、天狗勢、挙兵。 しかし、幕軍追討を受け、行き場を失い敬愛する徳川慶喜を頼って京都へ上ることを決意、信濃、美濃を粛然と進むが、慶喜に見放され越前に至り、非情な最期。 2014/02/08