内容説明
二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。『論語』に収められた孔子の詞はどのような背景を持って生れてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的としていたのか。孔子と弟子たちが戦乱の中原を放浪する姿を、架空の弟子・えん薑が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。現代にも通ずる「乱世を生きる知恵」を提示した最後の長編。野間文芸賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Kawai Hideki
90
孔子の死後30年頃、まだ「論語」が形を成していない時代に、孔子研究家のコミュニティで、孔子を直接知る最後の老弟子が語る、という体裁をとった井上靖の孔子論。戦乱の時代の国の興亡と人々の生活の変化。孔子が中原で夢見ていた世界と、それを阻んだ天命の厳しさ。市井の人々にとっての仁と政治家にとっての仁との違い。故郷の家々にともる灯のように、時代を超えて実現されるべき究極の幸せの姿。などが描かれる。孔子を絶対視し過ぎる傾向と、論点の多くが「〇〇は本当に孔子の言葉か否か」のような議論に終始していたのが気になった。2017/03/06
KAZOO
68
これは孔子の伝記ということではなく、、論語や当時の時代を記しています。架空の弟子が研究会で語るという形式になっていて論語がある程度分からないと若干わかりにくい点があるかもしれません。私は井上靖の小説の中でも好きなほうで、宮崎市定さんの「論語を読む」と同様に論語について入門的な役割を果たしてくれていると思います。2015/02/21
kawa
33
30数年前に挫折した本書、今回は読了。面白かったかと問われれば?なのだが、著者の数々の著作を読んだり、文学館を訪ねたり、10年弱のメーター経験力で、粘り勝ち読書という感じ。孔子の教えの足元にも到達しないレベル、でもそれなりの充実感。2022/07/07
tama
26
図書館本 こないだ読んだ辻邦生さんのエッセイで知って。井上靖好きなんですが洪作シリーズと月の光などお母様関係しか読んだことなく非常に偏ってます。いわば初「それ以外」。漢字難しいなー!でも気持ちいいリズム。記憶に残ったのはやはり「巧言令色」のくだり。仁は相手の立場で考えられる、信は相手と言葉で約束しあえるということ。私の場合は勤めている会社でよく見かけたなぁ、べらべらと口先だけのいい加減なことを語る人達。私自身は仁でないしなれもしないが、(痛い目に会って学習し)仁な人とそうでない人はかなり見分けられたぞ。2016/05/13
りー
23
孔子の14年にわたる旅をともに過ごした老人(架空)が、発展しつつある孔子教団、孔子研究者達に在りし日の孔子と、顔回・子路・子貢を語る一人称で書かれています。孔子が目指したのは「この世に生れて来た人間が、やはり生れて来てよかった、そう思うような社会を造るために、真剣に努力する人間の養成」だという作者に心を打たれました。滅びていく国々、死んでいく弟子達、でも孔子は絶望をせず、常に前を向き、太陽のように周囲を照らしていたのだろう、そんな風に感じました。熱が伝わり、温かなものが自分の内側から湧き出してきた本。2020/12/29