内容説明
人生の途上で堪えがたい悲しみに直面したとき、人はその事実をいかに受けとめ、その後の人生をどう生き得るのか。肉体に障害を抱えた長男と精神に障害をもつ次男、二人の息子を同時に自殺によって失った女性が、その悲惨を真正面から引き受け、苦しみの果てにたどりついた生の地平は? 魂の癒しを探り、生きることへの励ましに満ちた感動的な長編小説。第一回伊藤整文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
240
この時期の作品を読むのは初めてだが、ここには難解さや、あるいは一時期の大江作品にあった神話的イメージは影を潜めている。一見したところでは、私小説風に語られているが、これはやはりこうした手法のフィクションなのだろう。小説の後半では「イエスの箱舟」がモチーフとなっていることからもそう思うのだが。作中で繰り返しアレとして語られるムーサンと道夫の事件は、なんとも痛ましい。それを生涯抱え続けた倉木まり恵の造形は実に鮮やかにその像を結ぶ。また、最後で明らかになる表題の意味も深い。2012/10/03
nakanaka
79
知恵遅れの長男と事故による障害で車椅子に乗る次男、2人の息子を同時に自殺で失ってしまう女性の話。あまりにも悲惨な現実に打ちのめされる「まり恵」が生々しくも魅力的に描かれていて物語に引き込まれていきます。私は宗教を特に持つ者ではありませんが、一人では到底立ち向かえない現実を目の当たりにした時の拠り所としての存在と考えると興味深いです。 決してハートフルとかいう作品ではありませんが、これまで読んできた大江作品は強烈なモノが多かっただけに今作は温かみ感じる内容でした。2017/01/04
kaoru
72
肉体と精神に障害を持つ二人の息子が共に自殺するという母親としておよそ耐えられない悲劇に見舞われた倉木まり恵。「アレ」と呼ぶ悲劇から目をそらさない彼女はある宗教者に従ってアメリカに赴き、彼の死後はメキシコで労働奉仕に従事する。悲しみを直視するべく彼女が読むフラナリー・オコナーの小説やイエーツの詩。彼女を励まそうとする若者達やK夫妻。辛い小説だがまり恵の知性と勇気が物語に力を与える。「最良の人達は確信を失って、最悪の連中が激しい情熱に駆られている…今はまさにそういう時代」自分に許される限りの力を使い最後まで→2023/10/21
Vakira
50
息子二人を死に至りしめたものは?二人の意思?そんな!二人の意思であろうはずがない。では?神か?神なら自死を許すはずがない。神でないならばこれは大自然の所謂「宇宙の意思」。誰も抗うことの出来ない宇宙の意思。大自然を司る宇宙の意思が「善」ならば、私はそれに抗う「悪」となろう。「人生の親戚」とは、ある聖なると崇められた女性を主人公にした映画の題名。血がつながった仲ではないが、生きていくうえで苦難をともにするうち、まさに親戚のようになった真の友のこと。これは主人公のまり恵さんが、自分で命名したらしい。2025/08/18
たま
26
久々に大江の小説を読む。小説家Kが、2人の息子を自殺で失った知人のまり恵について語る。神の視点を排し自分が直接見聞したことに限定し、息子たちの死についても夫の手紙で状況を示すだけで、彼女が何を感じ何を考えたかには触れない。資産家のまり恵は夫と別れ仕事も辞め、フィリピンの劇団を応援したり、カルト的集団と暮らしたり、最後はメキシコの農場で(聖女と慕われていたそうだが、受洗したわけではない)死ぬ。その悲しみと折り合いを付けることができたかどうかは不明のままだが、病床でVサインしている映像が残った。⇒ 2021/01/27
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