内容説明
たばこのヤニから作る“おふくろ”の妙薬。奇病から髪の毛を失った母親へ、オランダで買った帽子。重なる心痛を耐え生き抜いて来た老母や肉親を描き、生きてあることの哀しみの源へ、真にあたたかな光を送る、短篇の名手・三浦哲郎の珠玉の名短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
shizuka
53
三浦さんの母を見つめるやさしいまなざしが、ゆっくりと伝わってくる。ヘルペス(帯状疱疹)に罹り、痛さを堪えながらやっと病院へ行くことを決意したお母様。月並みだけれど昔の人はなんて我慢強いんだろうと思った。帯状疱疹の痛みは尋常でないときく。それを民間療法の気休めでなんとか凌いでいたのだから驚いてしまう。そんなお母様が、オランダからのお土産に三浦さんへ注文したのが帽子。小さなお母様が大きな帽子を被って日向にいる様子。描写が的確でまるで絵を見ているような心持ちになる。いいなあ、あたたかいなあ。大好きな一編です。2017/02/15
YO)))
8
秋山駿の解説に曰く,三浦哲郎自身は,短編の理想の姿として,「一尾の鮎」を挙げていたが,それは永井龍男やメリメにこそふさわしく,チェーホフや三浦は「馬鈴薯」派だろうと(因みに本人にそう言って怒られたのとのこと). 表題作のオチなどには,親戚の笑い話を聞いてでもいるような,野暮ったさすれすれの素朴なユーモアがあるが,それが病床の母の痛々しさと実に優しいコントラストをなしていて,成る程,姿の良さを求めるばかりでは到達し得ない境地だという気がする.2015/05/30
AR読書記録
5
これも「老親文学」っぽいかなーと読んでみたけど、「母」としての思い入れはそう強くなく、淡白な印象。「短編の名手」の作として読んでみた場合、「不意に、平手で激しく頬を打つ音がして、彼は封を切ろうとしていた郵便物から目を上げた」といったふうに「え、何?」という一文からまず入り、次に風景描写等含めた状況の説明が入り、本筋が始まっていくという導入の構成がお勉強になるか。解説では井伏鱒二の系列として、ほか小沼丹の名前などもあがっていて、最近井伏鱒二好みだと思っているところなので、より追求したいなどと。2016/04/17
桜もち 太郎
2
短編の名手・三浦哲郎の作品集。随筆・私小説的な作品が多かった。どの作品を読んでみても彼のベースにある物は一貫してした。「おらんだ帽子」のまさかの結末に驚いた。「村娘」が良かったかな。2013/06/12
そろばん塾の生徒
1
講談社文芸文庫から出ている三浦哲郎さんの短編集。長い間かけて読んだので、物語それぞれの感想は忘れてしまって書けないけれど、いい文章が中にはあって、それが幾重にも積み重なり、実話にもとづく彼独特の、豊穣な作品へと繋がってゆく。三浦さんの作品はその中盤から後半に向けての展開と、結末がすごくいい。見習いたいとも思うけど、この域に達するまでにはたぐいまれな才能と、文章を書くことでしか生を体現できない人間にしか持ち合わせていない何かが必要ではないかとも思えてくる。 2013/01/25