内容説明
出雲。巨大な石亀が夜、這い出して池で泳いだ。小泉八雲の『知られぬ日本の面影』に書かれていたとおりに。旧家・木崎家の利重老人が死んだのもこのときだった。……服部健太郎は学生時代の女友達に頼まれて、ここ松江に来た。彼女の不倫の恋人に、殺人容疑がかけられているというのだ。茫洋とした普通の男健太郎。しかし彼は、なぜかたいへんな名探偵なのである!?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
深川拓
1
電子書籍にて読了。島根県松江を舞台に、石の亀が動く、という謎を発端に繰り返される殺人。焦点となる謎の仕掛けは非常にシンプルですが、仕掛けよりも、それが殺人事件にどう関わるのか、という部分の組み立てが面白い。探偵役・服部健太郎の過去の恋模様も絡んで明かされる真相には、さらっとミステリにおける探偵役の業も封じ込められていて、迫るものがあります。謎としても尺としても軽めですが、適切な重量感に、ささやかながら旅情も湛えた佳き小品。2016/09/22
gkmond
0
1993年9月20日初版発行。文庫書き下ろし。服部健太郎シリーズ。筒井の断筆宣言を踏まえた小ネタやこの年の冷夏への言及などが史料的に貴重か。最後のオチまで含めて、よくまとった小品といった印象。たださ、ワトソン役だったなぎさの設定には驚いた。70年代から子供の味方でございってスタンス一貫させてる著者が今で言うヤングケアラーについては一顧だにしていないんだもん。教わるまで問題は見えないの例だと思う。その点も史料としては貴重かもしれない。2022/09/26