内容説明
青い海の色をしたアクアマリン──床にオガ屑を撒いた酒場で出会ったのは、海で行方不明になったらしい息子を探し続ける医者だった。赤い血の色をしたガーネット──渋谷の中華料理屋の主人が貸してくれた宝石は、スランプだった「私」に赤い色にまつわる記憶を呼び覚ます。乳白色の月の色ムーン・ストーン──その石を手に入れたときから、心に生まれた白い核。若き女性編集者と情事を重ねながら、その核心を追い求める「私」。三つの宝石に託して語られる、作者絶筆の三部作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かみぶくろ
64
4.0/5.0 開高健の絶筆。石を愛でたり酒場を飲み歩いたり過去を振り返ったりとあまり筋らしき筋もないが、ともかく表現力が珠玉。なにげない光景や出来事も、この作家の文章に掛かれば珠玉に化ける。どういう言語中枢と想像力をお持ちなのだろうか。さすがの一言。2021/03/09
キムチ
41
筆者の絶筆とある。学生時代、私には「冒険家」としての認識しかなく、付き合っていた人にエッセーの素晴らしさを教えられながら辿り着けなかった。巻末解説が又良い・・佐伯彰一氏。アバウトな私の理解に付箋を付けてくれるように道標を立ててくれる。開高氏没後20年余り、その軌跡を俯瞰するとヘミングウェイに重なる・・らしい。確かに!その分析が面白い。3つの短編は文字通り、珠玉。個人的に「一滴の光」に打ちのめされる。男は最後まで男でありつつ逝く(人もある)とは!生涯のサミング・アップ=「浄福」・・エロスの極みでした。2015/05/05
奥澤啓
38
開高健の白鳥の歌。掲載号「文学界」発売直後にとびつくように読んだ。透明感、諦観、静謐さに感じるところがあった。「開高さんが危ない!」。ほどなくしてテレビで訃報が報じられた。私は晩年の開高さんの知遇をえた。僥倖以外のなにものでもない。しばらく関心を向けない日が続いていた。どこかの山の湖で釣りをしているのだろうと思っていた。本がでることもなかった。師走のはじめ、新聞広告の 開高健「珠玉」という文字がとびこんできた。その直後の訃報であ った。白鳥の歌の予感があたってしまった。あの日を永久に忘れることはない。2015/01/07
メタボン
33
☆☆☆☆ 開高健最後の作品。美文が多い。「掌のなかの海」おがくずを敷いたバーでの会話文が気持ち良い。ダイビングに行ったまま帰らぬ息子を探しに船医としてあちこちの海を探す先生。船乗りのおまもりであるアクアマリンの青い光に包まれる。光が消えるとそこには……。「玩物喪志」ガーネットの妖しい煌めきにヴェトコンの処刑による血塊の記憶が重なる。「一滴の光」若い新聞記者の娘と初老の作家との情事は教えるものが教えられる境地へ。ムーンストーンの滑らかな触感は女の肌を想起させる。そして温泉での浄福で一滴の意味するものは……。2024/09/01
わっぱっぱ
22
アンチエイジングとかいうオカルト的妄信行動をせせら笑う体をとりつつ、日々に老いを発見する度に全力抗戦を試みてしまう私であるが、じたばたしているうちに角が取れたり欲が枯れたりすることは実は幸せなんでないか、と思い至る。晩年は旅を釣りを酒を食を謳歌していた筈の著者の綴る文章が少しも幸せそうじゃなくて、漂泊しながら沈殿する我個の足掻きに、抜け出せない闇を感じた。 もしあと1年早く読んでいたら、ただ筆が巧いだけの気取った欲深親父と認識していたかもしれない。この時この作家に出会えたことは僥倖だった。2016/11/24