内容説明
「冬の時代」を告げる凩(こがらし)が吹きすさぶ。大逆事件が迫る。――日露戦争後の明治41年、東京赤坂の陸軍歩兵第一連隊から兵卒37名が脱営した事件を軸に、軍国化の足を速めた大日本帝国と苦難の時を迎える社会主義運動の姿を、豊富な資料をもとに再構成する。史伝体と物語体の巧みな併用によって今日によみがえらせた歴史長編。1985年、第12回大仏次郎賞受賞作。
感想・レビュー
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かんやん
39
日露戦争後にあった陸軍歩兵第一連隊集団脱営という地味な事件を軸に、エリート将校の野心と派閥争い、徴兵された兵士の鬱屈、社会主義者への弾圧を描く。軍事史家である著者が大岡昇平の歴史小説に刺激されて、歴史叙述には史伝体を、人物の会話や心理には物語体を使い分けているところが読みどころ。敢えて歴史家の節度を越えてみせるのだ。各章のタイトルは舞台となる(主に東京の)地名になっており、固有名詞や土地の変遷など、(あちこちゆかりがないわけではないので)興味が尽きない。この面白さはなかなか理解されないかもしれないが……。2020/02/04
CTC
9
92年ちくま学芸文庫、単行本も同社。大江志乃夫が1908年の第1師団集団脱営事件を軸に、史伝体と物語体を組み合わせ陸軍と社会主義運動を描く長編。大佛賞受賞作。保阪さん他、史家の書く小説にいい印象はなかったが…。 本書は田中義一、宇都宮太郎といった大物の他に、1D1iR5Pt猪熊中尉とその親友の是永中尉を長く追っていく。日露戦2年後の07年頃から10年の幸徳事件をメインとして、終戦までを記しているのだが…熊本幼年・予科士官学校で学んだ著者の経験と知識が生きており、時代の空気感が伝わってくる。これは凄い本。2019/12/06