内容説明
逃亡兵が闇の中で射殺され横たわる「小さな礼拝堂」。凍てつく酷寒の町に一人出されて道路掃除する「掃除人」。シベリヤの捕虜収容所体験をもつ作家の冷静な眼は、己を凝視し、大仰な言挙げとは無縁の視座から出会った人々、兵士、ロシヤの民衆の生活を淡々と物語る。「舞踏会」「ナスンボ」「勲章」「犬殺し」等11篇により、人間の赤裸に生きる始原の姿を綴る現代戦争文学の名著。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ステビア
15
シベリア抑留中の出来事を淡々と描く。解説にもあるように、抑留の苦しさを訴える視点が敢えて意図的に消し去られているのが特徴的。息子の長谷川元吉は吉田喜重などの映画でカメラマンを務めたようで、こちらにも驚いた。2020/08/17
モリータ
3
旺文社文庫版読了のため。買ったのはこちらが先だったが。2017/08/26
黒川ケンキチ
2
あの埴谷雄高や開高健が絶賛した小説、長谷川四郎(俺にとって小説の神様)の『シベリヤ物語』再読。その美しい文章を一つ例にとってあげる。↓ 『小さな娘は歪んだ寝台に腰かけ、その痩せた裸かの足を破れた夏帽子の中に突込み、上体をうしろにそらして、眼の上にかかる長い真直ぐな金髪をはねあげ、青い眼を細め、流し眼でぼくらを見ている。そして急に夏帽子をぽんと蹴上げて立ちあがる。』 おれもいつかはこんな文章を書けるようになりたいです。2013/02/18
1
しかし、石原吉郎(あるいは内村剛介)のシベリア抑留体験と比べると何と穏やかな光景が描かれているだろうか。この体験の語り方の違いは、石原吉郎と長谷川四郎の体験の違いに単純に帰すことが出来るのだろうか、ちょっと覚束ないのだが、石原が「失語から沈黙」へと自身を追い込まなければならなかったとは反対に、長谷川の小説は、それを自然と実践しているように思える。「シベリアは誰のものでもない」と石原吉郎は言ったが、この小説には、捕虜となった日本人だけでなくそこに住むロシア人たちの姿、「私たち」の物語が描かれている。2016/11/25
ville
1
一見客観的な描写だけど、ユーモアや皮肉が滲み出ている。極限的な経験を抑えて語る意思の強さを思う。村上春樹はここからかなり影響を受けてそうな気がする。2012/01/03