内容説明
少女時代を過ごした北京、リトグラフを学んだベルリンの生活、猫との不思議なふれあいや花に寄せるひそかな想い。生きるものすべてをみつめる暖かい目と、ひとそよぎの風にも自分の存在を確かめるするどい知覚力で、著者の生いたちと日常をオムニバス風につづる。直感し、認識し、理解し、愛され愛そうとするひとりの女性のすぐれた資質がみごとに表現されている。奔放なタッチで読者の心を魅了する著者のはじめてのエッセイ集。
目次
花は美しいのでしょうか
風がはこぶもの
見知らぬ街に降る雪は
空から降るもの
人は言葉を話すので
四角いガラスの向こう側
時は過ぎゆく
とどのつまり人は食う
はるかなる男友達
こんなときなのに
私の猫たち許してほしい
Schwarz Herz
うそ話を
朝目がさめたら、風の吹くままに
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mukimi
103
みすぼらしくて寂しくて哀しくて虚しい記憶を呆然と眺めて気付いたら長い時間経っていたような、深い瞑想後の様な不思議な読後感。借り物の言葉や思想を持ち込まず、人の心に響くものを書こうと気負わず、見栄も張らず、無理に明るく振る舞うこともネガティヴ思考を払いのけることもせず、この世界という不可思議なものを自分の中の記憶や感覚と素直に結びつけて言葉にしたら、こんな文章になるのかもしれない。子供の頃読んだ100万回生きたネコ、もう一度読もう。2020/12/21
ふう
42
佐野洋子初めてのエッセイ集。最初の章から打ちのめされます。佐野さんの感性はまっすぐで鋭く、その感性から生み出される言葉は深く的確で、読む人の心に哀しい雪のように降り注いできます。そんな佐野さんに、「私はあれほど的確な日本語を知らない」と思わせた言葉があります。韓国人のミスタ崔さんが久しぶりに会った佐野さんを見て言った言葉です。「人間は年をとればとるほど、その人に似てくるものですね」。佐野さんがより佐野さんに向かって生きていたことがわかります。2014/01/29
キクチカ いいわけなんぞ、ござんせん
29
ありのままでいて胸に刺さる佐野洋子氏のエッセイ。許してほしい猫とは子どもの頃親戚の家にいた猫。猫はどんなに高いところからもちゃんと着地する、と読んだ兄がその猫を何度も屋根に放り投げる。やがて動かなくなる猫。もといた場所にそっと置く兄妹。その後猫は蘇生するが、殆ど動かない猫になる。兄妹はもちろん沈黙している。そしてカマド猫という毛並みの不器量な猫の話。残酷さと後悔と不器用な好意の示し方をそのまま綴る才能。この本はしばらく手元に置いておこう。2019/11/13
プル
28
シリーズ「ヨーコさんの言葉」のベースになっている話も含まれています。佐野洋子さんらしい感性ですが、理解できちゃう自分がいる…きっと、これを共感している人が沢山いるんだと思う。サクサクと淡々と何もなかったように語る口調で、実は、なんかすごいこと言っている佐野さん…不思議な魅力を持つ方だなぁ、と思います。2019/02/28
tu-bo@散歩カメラ修行中
18
佐野洋子さんの履歴書のようなエッセイ。露悪的というのは違う、正直なエッセイ。2014/04/13