内容説明
昭和十二年、西九州の工業都市M市で、中央財閥系の染料工場が爆発事故を起こした。異臭を放つ黄色い噴煙が市を覆い、やがて疫病に似た症状の患者が続出。M市は完全に機能麻痺に陥った。内務省・軍部の調査団はこの病気を赤痢と断定、不完全な上水道設備が汚染源であると指摘した。だが、M市水道課長・中西公平はこの見解に鋭く対立、ひとり敢然と立ち向かった。軍部と癒着した大企業の横暴を抉る傑作長篇。
感想・レビュー
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まつうら
53
公害事件の作品と思い手にしたが、もっと恐ろしい国家犯罪だった! 市内の染料工場で突如爆発が起こり、そこから発生したパンデミックの描写に、序盤から背筋が凍りつく。しかし事故後の政府筋と工場の対応が許せない。毒ガス製造中の爆発事故だったことの隠蔽に、根拠もなく市の水道をスケープゴートに仕立てあげる。これによって風評被害が起こることをまるで気にしない対応に、メラメラと憤怒が巻き起こる。一方、水道は公衆衛生の問題で座視できないと立ち上がった市長が立派で、応援したくなる。でもラストは応援の甲斐なく撃沈。残念。。。2023/06/11