内容説明
「ワイン・グラスの赤い液体に映った人間の影、肉体の悪魔--あの美しい酒が、わたしの体のなかで、いま悪魔の肉に変わりはじめている」小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談物語「茶わんのなか」を題材に女性の魔性とエロスの世界を描く表題作(昭和59年第12回泉鏡花文学賞受賞作)ほか「葡萄果の藍暴き昼」「象の夜」「破魔弓と黒帯」「ジュラ紀の波」「艶刀忌」「春撃ちて」「フロリダの鰭」。多彩で絢爛たる異色作八篇を収録した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
142
遂に初めて読む赤江瀑さんの作品集。その世界は耽美であり背徳的。そして死の香りが匂い立つ。「八雲が殺した」での乙子の眠りの中での、まさかの暗転。そしてたどり着く白いスーツの背中。「葡萄果の藍猛き昼」での和歌の謎と絶望。「ジュラ紀の波」での白昼の惨劇のから明かされる秘密。「春撃ちて」の弓子の女としての変化と息を飲んで見つめる和正の愛憎。そして土俗的な恐怖。「フロリダの鱶」での山陰の海沿いの町での情愛の夏と、反転する事件。幽玄な情景と艶かしさ、そして近くにある死が実に印象的。夢中になり読んだ作品。他作も読もう。2017/10/28
藤月はな(灯れ松明の火)
34
「葡萄果の藍暴き昼」、「春撃ちて」は男の美化しすぎる幻想を木っ端微塵に破壊する女の底知れなさが重低音に響いているからこそ、遣る瀬無いです。「ジュラ紀の波」は彼が作ってきた「檻」のある予感に心震える。「フロリダの鱶」は「鱶」という字を「スシ」と読み間違えてしまい、「赤江さんが寿司屋の話?」と思い込んでしまうという体たらく(^_^;)内容は『太陽がいっぱい』やドラマ版『HANNIBAL』のように男二人の関係にしゃしゃり出て自分のものにしようとする、出しゃばり女への冷ややかな視線が感じられました。2016/11/25
メタボン
31
☆☆☆☆ 耽美的で独特な作風。なるほど泉鏡花文学賞にふさわしい作品。土俗的な道具立ては横溝正史や岩井志麻子の匂いも感じられる。結構はまったかもしれない。八雲の「茶わんの中」への美しいオマージュである表題作。子授け寺での淫猥な風習「象の夜」。七宝焼きと男色という日本らしい隠微なお膳立て「破魔弓と黒帝」。初夜に飾る日本刀「艶刀忌」。可憐な弓子が堕ちていく性地獄とゴーストライターとしての写真家の報復「春撃ちて」。男二人との性に溺れる女そして嘘から生じた意外な死「フロリダの鰭」。2018/04/03
きょちょ
18
幻想・怪異・怪奇小説8篇。 表題作は泉鏡花文学賞受賞作。 八雲の「茶わんのなか」という作品とその原典を比較し、主人公が八雲の作品に対して最初不満に思っていたことと別の原典との「違いの意味」を発見し、事件になっていく怖さ。 「葡萄果の藍暴(あら)き昼」は、言いようのないやるせなさとはかない恋。 「象の夜」の幻想的なところ。 「破魔弓と黒帝」と「春撃ちて」の推理。 「艶刀忌」の、初夜の時しか飾らない刀という、何とも言えない艶めかしさ、しかも刀にそれを感じてしまう。 これらの作品が特に好み。 ★★★★2016/12/30
冬見
14
「八雲が殺した」八雲が抹殺した25字の恋心。グラスの中に映った男を飲み込み、殺意の種は育ってゆく。「葡萄果の藍暴き昼」盲いた男の狂気が宿る一首が映し出す惨劇の真実。「象の夜」淫靡な神々と共寝した夜の秘密。「破魔弓と黒帝」七宝の矢が貫いた男たちの閨……艶めかしい夢幻の雰囲気を漂わせた短編集。この中では表題作「八雲が殺した」が一番好き。「フロリダの鰭」は「ポセイドン変幻」を思い出した。赤江瀑がわたしに与えた鮫の印象は陰鬱でエロティックな悪夢のよう。ふとした瞬間に、わたしを怯えさせる。2018/04/19
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