内容説明
謎につつまれた人物パーマー・エルドリッチが宇宙から持ち帰ったドラッグは、苦悶に喘ぐ人々に不死と安寧をもたらした。だが幻影にのめりこみ、酔い痴れる彼らを待ちうけていたのは、死よりも恐るべき陥穽だった! 鬼才ディックが、現実と白昼夢が交錯する戦慄の魔界を卓抜な着想と斬新な手法で描く傑作長篇!
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
59
現実と虚構の相克をモチーフにした一連のディック作品のなかでもとりわけその描写の比重が重く、しつこいほどの崩壊感に満ちているのが特徴。本作特有のフラクタル的な入れ子構造によって現実に虚構が混じりこむような幻覚の連続性はユービックやスキャナー・ダークリーなどで用いられた崩壊のモチーフに比べても読んでいて生じる純粋な混乱の度合いが強く、その迫真性は傑出していると言っても差し支えないほど。バーニイやロニ、アンを筆頭に男女とも登場人物の性質が典型的であることや、過去のモチーフの流用(名前だけであればビルトングさえ登2019/05/02
GaGa
47
ディックの最高傑作、四度目の再読。でも、改めて読んでみるとエンターテイメント性が少し鼻につき、「火星のタイムスリップ」の方が上かなあとも思えてくる(苦笑)しかし、読む麻薬的楽しさは本書が一番(二番目は「ユービック」かなあ)これこそ、一番映画化に向きそうな気がするのになあ。これも多くの人に読んでいただきたい名作の一つですね。2012/09/17
Apple
26
過酷な環境の未来において,人類が面する危機を扱ったような物語でした。幻想に人々を閉じ込めるかのようなチューZ,それによって人類を蝕む宇宙空間から来た邪悪な意志(あるいは,別の神?)。物語はパーマー・エルドリッチが象徴する悪意と登場人物たちの絶望的な戦いを描いているように思いました。目に見えない,実体の捉えられない敵との戦いが恐ろしく感じました。 「われわれはすでに何千年かを,ある古い疫病の下で生き抜いてきた」ありのままの過去,現在を受け入れ,立ち向かうことが生き延びるために必要だということかなと思いました2023/03/13
ネムル
24
相変わらずぐだぐだして、所々よくわからなくて、シームレスにトリップを始めて、やはりディックは面白い(ディックはラストで思弁的で神学的な対話になるよりも、わかりやすくエモーションに訴えかけるほうが好きだが)。深い悔悟と不透明な未来と、無限に引き伸ばされたような時間に囚われるところに泣き、ラストの静かな人間讃歌にまた泣くのであった(所々よくわからないが)。2019/11/15
阿部義彦
24
久しぶりに長編SFしかも1965年の脂の乗っていた時期のディックを堪能しました。今回は宗教の世界まで踏み込んでいて、相変わらずこの世界はどの階層なのかを延々と問い続ける多元宇宙でありしかもそれに+精神的タイムスリップや異星人人工進化なども絡んでいて複雑ではあるが読み進むうちにもう止める事のできない位に引き込まれます。この薬による世界には全てパーマー・エルドリッチの脳内で起こってるらしい事が顕になりその醜い風貌は時間を超えてつきまとい今の自分はその時間線の一つの中に閉じ込められて居るに過ぎないなんて!2016/05/11