内容説明
【第69回芥川賞受賞作】「少年は疾走していた。木々の葉の間を縫って光は斜めに射し、放射する幕のなかで狂ったような霧が踊っていた」。敗戦で秩序の破壊された大陸で、無法と死に追われる少年の目に、飢えと疾病に晒された世界が焼きつく。芥川賞受賞作「鶸」をはじめ「砲撃のあとで」「曠野」「竪笛」「流れのほとり」など、戦争の生々しい傷あとを描く連鎖状作品を集める。表題作含む14編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
196
第69回(1973年)芥川賞。 少年の目を通して、終戦時の風景を 描く。文体が清冽で、人々の 生き抜こうとする 姿勢が 上手く 描かれている。煙草を売りながら、 時代を生き抜く少年と その兄の苦闘が 哀しく 現代に伝わる作品だった。2017/09/23
ヴェネツィア
126
合計で短篇及び掌編を14篇収録。篇中の「鶸」は、1973年上半期芥川賞受賞作。大連(小説中には地名が書かれていないが)で、終戦を迎えた時、著者は10歳。それとほぼ等身大の主人公の眼を通して、終戦から引揚げまでの混乱期が活写される。芥川賞の選考委員たちの選評は必ずしも絶賛というわけではないが、それは素材の古さ(戦後28年が経過していた)に、作品の新しさが認識できなかったからだろう。今読むと、実にうまい小説だ。少年の心理の綾から、不安感までが見事に描き出されていたことに驚く。彼の散文は、まさに詩的でさえある。2014/03/19
kaizen@名古屋de朝活読書会
116
【芥川賞】作品「鶸」が標題になっていないのはめずらしい。銓衡委員の大岡昇平の評では「作品は荒削りだが、敗戦直後の満州の現実への視点がしっかりしている。氏は詩人としての実績のある人であるが、この作品には氏の詩作の経験を思わすものを見いださなかった。」とのこと。当時のことを知る人の感想を知りたい。自分では勉強になった。 2014/02/05
空猫
24
【第69回芥川賞】先日読んだ『こぶたくん』の訳者で『震える舌』の作者さんだった。 終戦間際。おそらく隣の大陸で、新聞社に勤める父を持つ少年が主人公。敗戦が確実となり、一家で船で引き揚げるまでの混乱を描いた連作短編集。少年目線で、とにかく生き抜き、日本に帰ろうとなりふり構わない自身と家族と世間の人々の様子がものすごい迫力だった。2026/06/11
大粒まろん
19
巧いと思った。言葉の密度や筆の走りに澱みが無く、臨場感のある良作。闇市で生計を立てる少年とその兄は、父親が病に罹りその日の生活もギリギリになっていく。兄が目論む事はうまくいかず、大人たちに翻弄される少年は追い込まれ、最後に少年が吐き出した言葉がとても恐ろしいくも苦くもある読み手に委ねる上手い着地。略奪する者される者どちらにでもなりうる。少女の袖を引きちぎるあたりはなんとも言い難い人間の落ちる様を、微細な心を描いていた。恐怖と怒りの情景がありありと伝わる非情に纏りのあるよく出来た短編でした。(受賞作鶸のみ)2023/09/14




