内容説明
私はその頃、アルバイトの帰りなど、よく古本屋に寄った。そして、漠然と目についた本を手にとって時間を過ごした。ある時は背表紙だけを眺めながら、三十分、一時間と立ち尽した。そういう時、私は題名を読むよりは、むしろ、変色した紙や色あせた文字、手ずれやしみ、あるいはその本の持つ陰影といったもの、を見ていたのだった。(本文より)憂鬱ななかにも若々しい1960年代の大学の青春を描いた、この時代を象徴する歴史的青春小説。第51回芥川賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
k-katayama
8
20代前半に読んだ本を、再読しました。学生の頃、まだ学生運動の残滓の中にいた私が読んだ本を、30数年後の私が再び読みたくなって購入。私にも「われらが日々」はあり、20代前半の私は、10代後半の私の日々を想いながら、そして、はるか先輩たちの学生運動渦中の生き方を想いながら、心を動かされた作品でした。だからこそ、はるかな時の隔たりの後に再読したくなったのですが、受け止め方がまるで違うことに驚きました。わたしの変化ですね。でも、今を生き、定年を迎えようとして振り返った時間の中に、「わられが日々」は現存しました。2014/07/04
bluemint
5
かつては1番好きな小説だったが50年ぶりに読み返した。こんな思想だけの小説がベストセラーだったことが今となっては信じられない。この時代の学生に顕著だったが、自分の考えや頭の中にあることをすべて書き尽くす、話し尽くしている。1960年あたりの社会状況の影響、共産党の武装闘争放棄の影響が大きいが、自分が展開した思考によっては自分で死を選ぶことも厭わない。完全に自分の思想に100パーセントの信頼をおいているということだ。議論に明け暮れた当時の熱気を感じると同時に、現実を見ない観念思想の果てに危うさを感じた。2025/08/25
mm
4
学生から社会人になるあたりの世代に普遍的な感覚がよく書かれてると思った。同時代性がなくともこれだけ共感できたのだから、もし自分が戦後まもないころを生きていたならば、きっとバイブルになっていたと思う。2009/04/02
調“本”薬局問悶堂
3
自分の時間を忘れていた。空いた時間があると、電話や、会う時間を作ろうとしたり。久しぶりに自分の内側を見つめる時間が出来た。「電話もしたくない、一人でいたい」と思った。関係を絶ちたいということでなく、自分が自分であるため、自分として生きている事を実感するため。 同時に、次に会ったらこの本の話しをしたいと思った。作者のこと、本文の節子の手紙に出てきた植物園のこと、学生運動のこと。 やっぱりこの時代の小説が合っている。でも生まれる時代を間違えたと思わなくていい。初めてそう思った。 《2020年7月 登録》2011/03/01
やりがい、求められてること、やりたいこと、できること
3
戦後の自由であることが特別な意味を持っていた時代に大学生活を送った若者の小説。手紙のシーンを多用している。ストーリーは面白い。若干伝えたいことのために小説の登場人物がリアリティーに欠ける部分がある。学生運動に関してもう少し触れているものかと思ったが若者特有の青臭さとどこか醒めた目を感じる内面を描いた恋愛メインの小説だった。2020/03/15
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