内容説明
著者にむけられた絶大な賞賛の、何にも勝る証左であり、短編作家・井上靖の力倆を余すところなく発揮してみせた十二編を収録する作品集。一族のなかに世襲の血として流れている“出世遁世の志”とでもいうしかないような現実離脱の心を探った表題作のほかに、「胡桃林」「グウドル氏の手套」「湖の中の川」「大洗の月」「孤猿」「蘆」「川の話」「湖上の兎」「俘囚」「花粉」「四つの面」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ayah Book
7
どれも中々読みごたえのある短編集。エッセイかなと思わせるような話が多い。重いテーマでも、じめじめせずにカラッと乾いたような筆致が良いですね。「胡桃林」「姨捨」「俘囚」「夏の雲」が好きでした。2019/07/23
MIEKKO
2
自分やごく近い知人、人生のふとした瞬間ですれ違った人。「市井」の人のストーリーを丹念に調べあげ、提示して見せたような短編集。感傷的にならず、かと言って歴史小説のような冷徹な視線に徹しているわけでもない。怜悧な視線から描かれる幾多の人生。この人の家系が医師、実業家と知るとなんか納得してしまう。それにしてもつい100～50年くらい前のことなのに、別の世界の人かと思うほど、当時の人は濃密な人生を生きていたと思う。彼らが現代の生を見たら、その浅薄さに驚くんじゃないだろうか。2012/09/04
