新潮文庫<br> 遅れてきた青年

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新潮文庫
遅れてきた青年

  • 著者名:大江健三郎
  • 価格 ¥902(本体¥820)
  • 新潮社(2014/03発売)
  • ポイント 8pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784101126050

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内容説明

地方の一山村に生れ育ち、陛下の勇敢な兵士として死をえらびえた筈の、あの戦争に間に合うことが出来なかった一人の野心的な青年が、やがて都会に出て、外面的には社会的な成功を充分にかちえていながらも、その内面においては、限りない絶望感と失落感にさいなまれざるを得ない、言わば現代の「赤と黒」的な主題を中心に、戦後世代に共通する体験を描出する、半自叙伝的小説。

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ヴェネツィア

362
再読。作中にも一瞬顔を出すジュリアン・ソレルを下敷きに、そしてまた『芽むしり仔撃ち』の面影をも揺曳させつつ、逆説的に語られる「わたし」の自叙伝。「すでにわたしはいかなる人間の情熱をかきたてるヒーローでもなく、いかなる世代の証人でもない。わたしは、あなたとおなじだ。」―こうして閉じられるエンディングはまことに寂寥感に満ちている。大江自身にとって、それは同時に60年安保の敗北と終焉でもあった。この作品は、『読書メーター』のレビューも少ない。もう今や、大江は過去の存在となり、熱い共感を呼ぶことはなくなったのか。2012/07/19

優希

94
半自伝的小説ということで、内的体験が赤裸々に語られることに対する覚悟が必要でした。汚辱と自慰からの匂い立つ臭気の中にいる野心的な青年。戦争に出征することで光栄な死を選ぶことに遅れた青年は都会に出て社会的成功をおさめるも、内面は失落感にさいなまれているのが苦しかったです。ただ、ここに共感してはいけないのだなと思わずにはいられませんでした。ここにあるのは怒りや孤独や恥という感情が強く、感情移入したら共に堕ちていくしかないのだから。内的体験のフィクショナルさだからこそ突き刺さる作品でした。2016/04/06

遥かなる想い

91
同世代の人間が戦争に行き、死んでいく中、自分も戦争で死ぬはずだった 青年が死にそびれてしまった…戦後の世代の共通感覚なのだろうか。乗り遅れた喪失感のようなものを、巧みな筆致でうまく書き込んでいると思う。このころまでは、まだ大江健三郎についていけた記憶があるのだが…2010/06/19

Gotoran

48
地方の山村に生まれ育ち、天皇陛下の勇敢な兵隊として死ぬことを夢みていた少年が、終戦によって刻印された「遅れてきた」という絶望感に苛まれながらも、都会に出て貪欲に上昇志向を目指して社会的には成功するが、心は満たされず、喪失感に満ち溢れている。大江初期作品の主題とモチーフが揃った内容で、戦後世代共通の体験を持つ当時の若者の代表として、鬱屈した自意識過剰の主人公の内的体験が描き出されている。決して心地よい読後感ではなかった。2021/08/25

ころこ

42
2部構成になっていて、第1部と第2部の第1章までで半分、第2部の残りが半分と分量が割り振られている。第1部は初期作品の雰囲気が濃厚な森の中の在と朝鮮人共同体(その中の康との交流)、高所部落の村に、戦争が終わることで3者の関係と米軍が入ってくることで起こる変化を描いている。歴史意識とは完了形のことだが、「遅れてきた」とはまさに現在完了形だ。決定的に遅れたという意識は強迫的に作用し、かえって次の時代を動かす力として機能する。60年安保世代にはその様な意識があったはずだ。「遅れてきた」とは天皇の赤子になり損ねて2025/02/25

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