内容説明
喧噪にみちた都市、はげしい日光に照らされた泥のなかの村、虫と鳥と猿の声にざわめく森……亜熱帯特有の豊熟した熱と腐臭に包まれた東南アジアの国に、砲声と軍用機の爆音が響く。繰り返されるクーデター、爆弾テロ、拷問、ナパーム攻撃、銃撃戦。そのなかを漂い、現地の娘との性愛の汗にまみれながら、必至に試みる《見る》という行為――。ベトナムをはじめとする数多の取材体験を踏まえ、架空分裂国の戦争を通して人間と自分への絶望、現代の虚無と混沌を鮮烈に描破する。作家・開高健が30歳代に到達した地平と新たな出発を示し、圧倒的な迫力と重さをそなえた傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さっと
5
生前・没後双方の全集におさめられることのなかった小説家自身のボツ認定作品ということでマニアにはたまらない仕様だけれども、ひとつの章のタイトルに「輝ける闇」とあるのと、初めての自伝的小説「青い月曜日」の執筆とベトナム体験を経た時期と、オーウェル的寓話を目指した架空分裂国の設定も結果ベトナムの比喩でしかなかったという回顧談から、初期→中期への橋渡しとしても読みどころのよう。ノンフィクションの『ベトナム戦記』と、代表作としてもあげられる『輝ける闇』との間にこういう小説が存在していたのか、という発見がすべて。2019/10/10
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- 和書
- 飆風 文春文庫