内容説明
清冽な抒情のあふれる散文詩の世界は、井上文学の精髄であるとともに、現代詩の系譜のなかでも類を見ないユニークな光彩を放っている。人生への愛、使者への慟哭、青春の疼き、運命に対する畏怖など、さまざまなモチーフを謳った詩篇には深い静寂と諦念にも似た明澄さが漲っている。既刊の5冊の詩集のすべてと最新作、拾遺詩篇多数を収録する。半世紀に及ぶ詩業の集大成。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
133
まるで一幅の絵を見た時のように脳裏に鮮やかなイメージが刻み込まれる詩の数々。井上靖の小説と共通するものが多くて、彼の小説は凝縮された詩のイメージを物語に発展させたものであることが分かる。深い孤独感と表現へ向かう情熱という正反対の要素が込められた詩が多い。正反対のものを一つにまとめられるのは、詩の魔法だと思う。非常に気に入ったので、これから繰り返し読んで自分の血肉にしたい。2016/02/14
新地学@児童書病発動中
108
昔俳句を習っていた時に、先生に詩魂を大切にしないと言われた。詩魂とは美しいものは純粋な喜びであると信じる心だと思う。井上靖の詩には、詩魂を感じる。どの詩も硬質な詩情を讃え、詩の中心には鮮やかなイメージがある。美しいと言っても、心地よいものばかりではなく、死や孤独といった否定的なものもある。そう言ったものをひっくるめて、人間界のあらゆることに美を見出そうするのが、井上靖の文学者として生き方だったのだろう。2016/12/17
巨峰
4
散文詩のスタイルを持った井上靖の全詩集。後に、小説で再び書かれたものもあり、井上靖のファンなら必読です。
ミーム
3
西域と青春時代を題材にした詩が好きです。すべてお気に入りですが、特に感慨深いのは「汝は地上における神の影である」と記された墓を見た時の詩と、戦争で亡くなった友を描いた詩です。学生時代、くったくなく笑いあった仲間達――。あの日の楽しい思い出を、出兵した友人たちも死の充満した戦場で思い出したのだろうか、と。やりばのない悲しみに共感して、胸がふるえました。平和な今、大切な友達といる時にふと思い出したりします。2002/04/02
chiuchiu
2
以前読んだのは8年程前。どれも物語の気配を感じさせ、または日記を読んでいるような散文詩集。絶版になっているので、図書館で2回借りたが最近近くの古本屋で見つけて買いました。寂しさと危うさを含みつつも、川端のような狂気をはらまない重みのある文章が好き。何度も読みたくなります。