内容説明
聞きたまえ! 億万長者にして浮浪者、財団総裁にしてユートピア夢想家、慈善事業家にしてアル中である、エリオット・ローズウォーター氏の愚かしくも美しい魂の声を。隣人愛に憑かれた一人の大富豪があなたに贈る、暖かくもほろ苦い愛のメッセージ……現代最高の寓話作家が描く、黒い笑いに満ちた感動の名作!
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
催涙雨
59
「人間を人間だから大切にするという理由と方法を見つけられなければ、そこで、これまでにもたびたび提案されてきたように、彼らを抹殺したほうがいい、ということになるんです」痛ましいほどの皮肉を扱った哀しい感じのする作品なのだけど、読んでいるぶんには不思議ととても楽しかった。博愛や利他という観念はそれ自体がかなり難しい性質を含むものなのだと個人的には思っている。それがどれだけ正しいものであっても、愛すべき背景をもたない人間までもを愛するエリオットのような精神をもつことは非常に難しい。難しいからこそ理想なのだろう。2020/08/13
Vakira
49
「ポルノグラフィーと芸術の違いは体毛にある」ウヒ!こう言う定義好き。どっちがどっち?有りがポルノグラフィーで無しが芸術?男性需要の所為か、パイパン(脱毛)が市民権を獲得している現在ではこの定義は通用しないと思いますがこの本が書かれたのは1965年、この定義はアリだったのでしょう。愛する妻へのラヴレター、陰毛でおとすなんておかしいでしょ!ヴォネガットさん、物語の構成作りが面白い。脱線的に脇役?と思っていた登場した人物の物語があれよあれよと広がっていく。それがまた悲劇にしろ真面目な話にしろタッチはコメディー調2025/07/30
mt
31
ヴォガネット2作目。始めから終わりまでブラックなユーモアが冴え、とにかくおかしい。そして、「スローターハウス5」よりも構成が簡素だから安心して笑える。もちろん喜劇ではない。戦場で精神を病んだ富豪の出であるエリオットが貧しい町で人々の心を癒す。金と家の束縛から解放されたエリオット自身も落ち着きを見せ、町の生活に溶け込む。最後は本家と分家の財産争いに巻き込まれるのだが、期待通り痛快な結末に導いてくれる。これ以上ないほど痛快に。ユーモアと風刺をスパイスに著者の思いが直接的に伝わる読みごたえのある作品だった。2015/09/23
おさむ
30
カート・ヴォネガット初めて読みました。1965年の作品なのに、まるで現代のAI社会を予見しているようです。金が全てを支配するアメリカ社会に対する強烈なアンチテーゼ。人間を人間だから大切にする。果てしない機械化によって人間の生産的な価値が低下していくいまこそ、読むべき小説のようにも思えます。2019/10/31
のせ*まり
29
軽い気持ちで読み始めたら、結構重くてお腹が一杯状態に。トランプ政権の今だからこそ、多くの人に読んで欲しい。エリオットのしていることは結局は自己満足かもしれないけど、与えられる側としては、それを当たり前に思ってはいけないなぁと読んでて辛くなった。エリオットは見返りを求めない、人間の弱さを知っているから。だからどんなに周りに与えても満たされていない気がして少しさみしい。なんとなく『星の王子さま』を連想させる。文章で読むより映像化した方がしっくり来る気がする。2017/02/28