内容説明
伊那駒ケ岳稜線上に聳え立つ遭難記念碑は何を語るか……大正2年8月26日、伊那駒ケ岳登山中の中箕輪尋常高等小学校生徒ら37名は、突如襲った台風に遭難、11名の死者を出した。信濃教育界に台頭する理想主義教育と実践主義教育との狭間に、深い哀しみと問題を残した惨劇の実相を著者自ら登攀取材した長篇小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ユー
17
「聖職」というだけあって、教育論争から始まる。教育の理想から修学旅行登山へ内容を繋げるのは若干強引かなという印象を受けました。中盤辺りに差し掛かると、其処は、やはり新田次郎先生の臨場感満載文章で、鳥肌ばかり立ちました。自然の猛威によって、いとも簡単に人間が倒れて行く有様を思い知らされました。2023/12/17
ヤスヒ
11
長野県駒ヶ岳。その稜線上に立つ遭難記念碑。その記念碑が語る大正2年8月の中箕輪尋常高等小学校の修学旅行として実施された駒ヶ岳登山の集団遭難事故とは? 実話に基づいた長編小説である。嵐の中での極限状態の場面は圧倒的であり、一人、そしてまた一人と力尽きていく様子は何ともやりきれない。夏なのに体温が奪われていくというのには自然の脅威を感じた。また教師が生徒を思いやるという姿が終始印象に残る。最後尾の教師と生徒が岩陰で救援を待つ場面には不意にも涙してしまった。「生きること」「愛すること」の意味を問いかけた一冊。2011/12/30
ちくわ
8
大正2年に駒ケ岳登山(小学生の修学旅行)で起きた大量遭難事故、実話を元に作られた物語です。山頂付近で天候が急変、宿泊予定となる山小屋は吹き飛ばされて跡形もない状態、長い時間、雨風に晒された子供達は低体温症で次々に死亡…中央アルプスの駒ヶ岳は登山口から約8時間、3000mクラスの山、重い内容でした。2022/03/31
すこにゃん
8
読んでいる時自分は完全に稜線上を彷徨う遭難者であった。読後には強烈な余韻が残った。これからは遥かに中央アルプスを望むときその稜線に佇む碑と実在した悲劇を思わずにはいられないだろう。60ページ以上に及ぶ巻末取材記はノンフィクションとフィクションの境目を浮き彫りにしてくれて興味深い。2013/01/07
かめみち
6
大正2年8月26日、伊那駒ヶ岳登山中の生徒ら37名は突如台風に襲われ遭難。11名の死者を出しました。遭難の話はいくつか読みましたが、遭難の起こった背景や後日談を詳細に記述しているのは本書が初めてでした。取材記も新田次郎の並々ならぬ熱意を感じました。遭難しようと思って山に入る人は誰もいません。結果として遭難してしまったけれど、最期まで諦めずに子どもたちを守ろうとした赤羽校長はまさに聖職の人。遭難記念碑に献花をしに、いつか木曽駒ヶ岳に登山しようと思います。2010/05/05