内容説明
愛なくばすべてはむなしきものを――人間はなぜ欲望の前に自らを喪失するのだろうか。憎み合う無軌道で冷酷な兄と気弱な世間体を気に病む父、その間にたって心をいためる清純な弘子……冷たい隙間風の吹く家族を描きわけて人間の愛憎と家庭の崩壊をあらわす問題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メルト
27
主人公の兄が妊娠させた女性が自殺し、それに揺れる二つの家庭を描いた作品。圧巻のストーリーで読む手を離させなかった。そして、それ以上に考えさせられた。だって、兄弟というのは、同じ親から産まれたというだけで、考えも容姿も違う別人なはずだ。しかし、その内の一人が罪を犯したならば、兄弟も同様に恨まれることになる。たとえこの物語のように性格が真反対だったとしてもだ。これが気になったのは、もちろん、僕に姉と弟がいるということもあるだろう。でも、それでも不条理ではあると思った。家族というものを、考え直したくなった。2018/08/11
みりん
15
自己中心的で傲慢な人は反省も後悔もせずに、好き勝手に生きていけて、守るべきものがある人のほうが苦しむものなのかもしれない。強欲で冷酷な兄をもつ家族の話。同じ環境に育っても千差万別に育つところが不思議だなあ。生まれ持っての性質というものが永遠に変えられないとしたら、そんな性質を受け継いでしまった栄介(兄)も可哀相なのかもしれない。いや家族の方が可哀相か。眉間に皺を寄せながらも一気読み。おもしろかった!2010/12/18
ゆーこりん
9
三浦綾子さんの小説はすごい!と改めて思った。ストーリーは他に類を見ない。勧善懲悪でないところがかえってリアルだ。憎むべき奴がこれでもかこれでもかと悪事を繰り返す。悪運も強いから事故にあっても一命を取り留める。それでも全く心を入れ替えない。周りの人間だけが傷つき苦悩する。体面だけを考え保身する父。成育歴の影響からか冷淡で無感動な母。そして「家庭の崩壊」。また、この本でも「罪」というものについて問題提起される。家庭、家族というものを今一度見つめ直したくなる問題作。2014/01/29
バーベナ
7
悪意が飛び交う家。そのなかで唯一『善』を体現しているのが長女:弘子。彼女に不幸が襲い掛からぬよう、祈りながら読んでしまう。『悪』の権化は長男:栄介。そんな発想って、そんな陥れ方って、どうして思いつくのさ!と唖然としてしまう。凄い。2015/08/31
gurisan
3
★★★★★ 久しぶり、ぐっと読み応えのある本。ぐんぐん物語に引き込まれ、時を忘れた。心ない兄に振り回される弘子たち一家。家族って兄妹って・・・愛せない人、憎むべき人とどこまで共に歩めるか。深いテーマがある。そして、崩壊。ひとつの染みからすべてが台無しになる。そして、その染みはだれの心にもある。いたたまれないほど。2010/12/02