内容説明
“そのころ、わたしは三ノ宮ではいい顔だった”太平洋戦争敗戦直前の神戸・三ノ宮。荒廃して行く人々の間で時代にあらがい、野生の純粋さをもって満たされぬものの中をひたむきに生き抜く、美しい不良少女の姿と、戦災で燃え落ちる街への挽歌を奏でる表題作ほか、女性心理の妖しい美しさをリリカルに描く傑作九篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Gotoran
38
昭和25年~39年に雑誌に発表されたと云う10篇の作品を収録。その中から、表題『三ノ宮炎上』:戦争末期に三ノ宮で不良として過ごしたオミツが主人公。当時の不良少女たちの生態が描かれる。日常とは異なる状況で、街と人々が冷静に描かれている。時代背景を負って、そこで生き抜く女の 子たちが、社会を斜に見ながらも、前向きに生きていくのを窺い知ることができる。最後の空襲にによる三ノ宮炎上が印象的だった。前が見えない若者とどうなっていくのかわからない三ノ宮の街が対照的に静かに語られている。2025/09/01
naoko
1
太平洋戦争末期の青春。煙草をふかし、カツアゲし、上着の前をはだけて闊歩し、仲間とつるむ。昭和18年と19年が一番楽しかった、という主人公の独白に目を疑った。そんなこと聞いたことない…灰色の雲が日本を覆っていたときに!いわゆる「不良」は世間とずれて生きている、しかし戦争最末期となると、世間の人々の眼が血走って、「不良」はしっかりまともになるという…井上靖ってこんな小説書いたんだ!とその慧眼に感嘆した。2016/08/06




