内容説明
北海道天塩山麓の開拓村を突然恐怖の渦に巻込んだ一頭の羆の出現! 日本獣害史上最大の惨事は大正4年12月に起った。冬眠の時期を逸した羆が、わずか2日間に6人の男女を殺害したのである。鮮血に染まる雪、羆を潜める闇、人骨を齧る不気味な音……。自然の猛威の前で、なす術のない人間たちと、ただ一人沈着に羆と対決する老練な猟師の姿を浮彫りにする、ドキュメンタリー長編。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
636
読み友さんの間で話題になっていたこちら、やっと読めたが、ゾワついた気持ちを抑えられなかった。確かにヒグマは恐ろしい。でも彼らの生態系に踏み込んだのは人間だよね。そしてその人間だって、好きこのんでこんな冬の厳しい、枯れた土地に入植したわけじゃない。選択肢が他になかったのだ。ラスト場面は、決して「してやったり」とは思えなかった。この時代にかの地に入植して苦労された、人びとの壮絶な人生を思う。そしてこれは、実話ベースのフィクションとして読まれるべきであろう。2019/05/11
青乃108号
596
北海道の入植者の村を襲い6名を殺害した羆一頭。最初に喰った女の肉に味をしめて破壊の限りをつくす獣に何百人もの男が討伐に向かうが掠り傷を与えたのみで取り逃がす。登場するは落ちぶれた孤高の猟師、銀四郎。たった1人で獣を追い詰め対峙し、狙い違わず3発の銃弾で見事にしとめる。思わず快哉を上げる。著者の筆力に脱帽し、銀四郎の格好よさに惚れた。男だけど。2021/08/27
読特
473
札幌から石狩街道を海岸沿いに北上。留萌を超え、羽幌の手前、苫前。内陸に入り折り返す。仮説の氷橋のみ架かる当時。1915年の六線沢。明治から昭和をつなぐ大正という時代。季節は12月。雪が積もる草囲いの家。薪を炊いて暖をとる。羆はそこに現れた。既に人の味を覚えている。退治すると遠目で話す勇ましさ。身近に迫る黒い巨体。銃の不発。火を恐れぬ姿。臆病さを隠せない。薪の崩れる音にパニックになる。野生の中でのヒトの無力感、自然を正しく恐れることの大切さ、動物と共生していく道。歴史に残る一つの獣害事件が教えてくれる。2023/08/08
ちび\\\\٩( 'ω' )و ////
458
1915年(大正4年)12月9日、北海道苫前村三毛別六線沢の移住初期。元々この地に住んでいた人はいない。羆が開拓民を襲い2人を殺害。更に隣家に侵入し子供や妊婦を殺害する。村を上げての羆討伐を開始するも体長2.7mの巨羆に戦意喪失。警察隊が出動する大事態になるが効果は見られず、区長は荒くれ者だが凄腕のマタギ(猟師)山岡銀四郎に羆討伐を依頼することになる、、、。大正4年の12月9日から14日までの6日間に実際に起こった、日本史上最悪の被害を出した獣害事件。人間と羆の戦いと、羆の脅威を描くノンフィクション小説。2019/03/08
Nobu A
432
吉村昭著書3冊目。図書館で予約し2週間後入手。読み易い筆致は相変わらず。史実を基に書いた三毛別羆事件がどんなものだったか息を潜めるように頁を捲る。山岡銀四郎(何故本名、山本兵吉ではないのか不思議)の存在が際立つ。読書中様々想いが駆け巡る。獣害は憎むべきだが、動物との棲み分けが曖昧になりつつある近年、特に森林破壊で生態系が崩れ、新型コロナウイルス発生の遠因、残飯を食し住宅街に入り込む動物ら、猟師と言う謂わば専門職の衰退等、色々と考えさせられた。昔は記録にも残らず、羆に食い殺された人もいたのでは思った。合掌。2023/04/17